賃貸併用住宅の一括借り上げは本当に大丈夫なのか


賃貸併用住宅の建築を提案するハウスメーカー、特に大手では、一括借り上げを“保険”として建築プランとセットにして提案してくる場合が多いです。一括借り上げはリスクを全てハウスメーカーが引き受けてくれるのでメリットが大きいように聞こえますが、色々な条件もあり仕組みが複雑なので、本当に大丈夫か不安になる施主・建築主も多いです。

テレビCMやWeb広告などで「30年一括借り上げで安心」などのうたい文句をよく見ますが、一括借り上げという仕組みの裏側を知ることで、得なのか損するのかを見極めることができるようになります。

さっそくその詳細を見ていきましょう。

賃貸併用住宅とセットで提案される一括借り上げは99%損する


最初に結論を書いてしまうと、一括借り上げはほとんどの場合は損します。少なくとも私が直接見聞きした案件では全てが損をしており、知り合いのプロたちに聞いても得をしたという事例は一件もありませんでした。

一括借り上げは、他にサブリースや家賃保証制度とも言われる仕組みで、その仕組み自体はよく出来た制度です。素人である貸主、つまり大家に代わり、プロであるハウスメーカーや不動産会社がリスクを背負って賃貸経営を代行するのは理にかなった仕組みだと言えるでしょう。

ところが土地や建物を所有しているのは貸主・大家にも関わらず、賃貸経営の運用に関する意思決定はすべてハウスメーカー側が握ることになります。さらに知識と経験の圧倒的な差から、貸主が本来得られるはずの利益をほとんどハウスメーカーが吸い取ったあげく、貸主は得していると錯覚している、という詐欺まがいのことも簡単にできてしまいます。

ではどんな“騙しのからくり”があるのか。どうすれば騙されずに賢く賃貸併用住宅のメリットを享受できるのか。仕組みの裏側を見ていきましょう。

一括借り上げは高い建築費に気付かれないための隠れみの


一括借り上げの裏側として第一にあげられるのが、建築費の高さから建築主の注意をそらす“エサ”としての役割です。

例えば他社なら8000万円で建築できるような建物を、1億円で提案してくるとします。相見積もりを取って建築費を比較すればすぐに建築費が高過ぎると気付けますが、一括借り上げによって安定した毎月の収支を提示されると、建築費に意識が向かず、毎月の収支を見て安心してしまうのです。

例えば、「建築費が1億円かかりますが、一括借り上げで毎月45万円の家賃収入を保証します。アパートローンの返済が毎月35万円なので、毎月10万円が手元に残りますよ」と言われると、保証される家賃収入でローン返済はできるし、毎月余分な収入が手に入るなら得する提案だな、と思ってしまいます。

ここで他のハウスメーカーや工務店ならどんな収支になるのか?と考える事ができれば割高な建築費を回避できますが、実際はそこまで気が回らない人が多いです。

建築主としては、あまり不動産に詳しくないし、他社でも一括借り上げで家賃収入を保証してくれるかも分からないし、話し相手の営業マンは信頼できそうだし、収支計画もしっかりして得しそうだし……納得できる提案だから、賃貸併用住宅を建ててしまおう、と考えてしまうのです。

ハウスメーカー側からすれば、普通より2000万円も余分に払ってくれる建築主には親切にしますし、一括借り上げで多少損が出そうでも全く問題ない、と考えて提案しているのです。

一括借り上げによる賃貸経営の丸投げは騙されやすい


賃貸併用住宅を建てたら、賃貸住宅部分を貸して家賃収入を得ることになります。他の商売に比べて手間はあまりかかりませんが、何もしないで良いわけではないので、賃貸経営をしっかりと行っていく必要があります。

ここで不動産投資や賃貸経営の経験がないと、ハウスメーカーの一括借り上げによって賃貸住宅の運営をプロに任せ、しかも空室による家賃収入を得られないリスクもハウスメーカーで引き受けてもらえる、となれば一括借り上げは素晴らしい仕組みだと感じてしまうのも無理はありません。

こうして運営の手間もリスクも引き受けてもらう裏側で、実は建築主が得られるはずだった家賃収入による利益を、ハウスメーカー側にごっそりと持っていかれてしまうという現実があるのです。

高過ぎる一括借り上げの保証料


まずは一括借り上げの保証料として家賃収入の20%を支払うことになります。例えば実際は5万円で貸せる部屋でも、貸主(大家)が受け取る保証家賃は4万円になってしまいます。特に新築当初は空室になってもすぐに次の借り手を見つけるのは簡単ですから、空室リスクがほとんどない、しかも高い家賃を受け取れる新築の頃にわざわざ高い手数料を支払うことになります。

ただしハウスメーカーが建築費でたっぷり利益を確保できる案件の場合、5万円で貸せる部屋に対し、保証家賃を4.5万円や5万円にするなど、当初の保証家賃を高く設定している場合があります。この場合は建築費で確保した利益をほんの少しずつ還元しているだけで、5年後の最初の保証家賃見直しのタイミングになれば大きく金額をさげられてしまいます。

築年数が古くなってくれば保証家賃の見直しタイミングのたびに保証家賃を減額され、さらに古くなった設備の修繕費を請求されるようになり、収支が一気に悪化していくのです。

たっぷり手数料が乗せられた修繕費や設備費


入居者の入れ替え時の清掃やリフォーム、住宅設備の修理や入れ替えでも、たっぷり利益が乗せられた金額で修繕費や設備費を請求される事になります。中には「毎月いくらか積み立てれば修繕費用の支払いがなくなります」と不安を解消するように見せかけ、「積み立て」と称して実際にかかる修繕費以上の金額を貸主から徴収するパターンもあります。

さらには10年ごとに500万円~1000万円の大規模修正が必要などと言われ、絞り取られたあとに残ったわずかな家賃収入をコツコツと積み上げた利益さえも、ハウスメーカーに持っていかれることになります。

賃貸経営の手間やリスクを恐れず、自分で考えて賃貸経営をする


こうした一括借り上げによって高い建築費を払わされ、賃貸併用住宅ができた後の家賃収入まで吸い取られてしまう原因は、賃貸経営に対する手間やリスクをプロに負ってもらおうとする、自分の中の「不安」な気持ちです。

賃貸経営はプロに頼るのではなく、自分が中心となってプロに仕事を任せることで、ほとんど手間もかからず、しっかり利益を確保しながら運営していくことができます。水道に不備が出たら水道設備会社に修理を依頼し、入居者が退去したら不動産会社に入居者を連れて来てもらえばいいだけです。常識さえあれば誰でもできます。

また空室によって家賃収入が途絶えるリスクなんて本当に小さなものです。例えば入居者が2年(24カ月)住んで退去したら、ちゃんと賃貸募集をすれば1~2カ月で新しい入居者は見つかります。

空室期間が1カ月なら1÷(24+1)=4%の空室による機会損失、2カ月でも倍の8%の機会損失ですから、20%もの保証料は運営の手間を考えても払い過ぎです。空室リスクは意外と小さなものなのです。さらに家賃の5%の手数料を支払えば、どこでも好きな不動産会社で賃貸管理を請け負ってもらえます。

入居者管理や修繕など、実際の作業は専門のプロを探して仕事を依頼すれば良いのです。逆にリスクを引き受けることや、賃貸経営上の意思決定はプロに任せるべきではないのです。リスクや意思決定までプロに任せてしまうと、ごっそりお金を吸い取られ、高い授業料を支払うことになってしまいます。

賃貸併用住宅を建てるときだけでなくても、自分の頭で考えることが大切なのは明白です。自分が知らない世界の話だといって、考えることを放棄しないように気をつけたいものです。