賃貸併用住宅について、自宅購入を検討している人は「家賃収入が得られる自宅」という認識があると思いますが、不動産投資の手法としても「住宅ローンで取得できる賃貸物件」という側面もあります。つまり賃貸併用住宅は不動産投資における投資法の一つであるという事も言えます。
不動産投資は効率よく収益を得られる物件かどうかを「利回り」で判断します。利回り(%)=年間家賃収入÷物件の取得総額×100で表されますから、利回りが高い物件は取得総額が安い割に家賃収入が多い物件ですので、収益性の高い“良い物件”という判断ができます。
このように利回りは便利かつ重要な指標としてよく使われていますが、この利回りだけで判断してしまうと賃貸併用住宅の真の価値について理解できず、せっかく多額の資産を得るチャンスがあるのに見逃してしまいます。今回は賃貸併用住宅の利回りと、不動産投資の一つの手法としてどう考えるべきかについてお伝えします。
賃貸併用住宅の利回りは新築で2%~4%
賃貸需要が高く地価も高い立地で賃貸併用住宅を新築した場合、利回りは2~4%程度になります。住宅ローンで賃貸併用住宅の借入をしようとする場合、延べ床面積の半分以上が自宅部分であることが必要ですから、家賃収入を生む賃貸住居は建物全体の半分以下です。つまり通常の新築アパートに比べて利回りは半分以下になるという事になります。また自宅部分は賃貸物件よりも住宅設備が良くしがちですし、同じ仕様の部屋を作っていくアパートと違い、賃貸併用住宅は特殊な注文住宅を建てることと同じですから、建築費も高くなりがちです。結果的に利回りはさらに低くなってしまいます。
資産価値の観点からオススメはしませんが、地価の安い場所に新築すればもっと利回りが高まる可能性はあります。また中古物件は条件しだいで利回りは大きく変わりますが、地価の高いエリアならば4%~5%程度の利回りになります。
利回りの高さを追求するだけでは見えない観点
以上のように不動産投資用の物件として、賃貸併用住宅は非常に低い利回りの物件であるように見えます。ただしこれは得られる家賃収入が投資金額に対して少ないというだけで、実際は多くのメリットを得ることができます。まずは自宅として住みますから、今まで賃貸に住んでいた人は支払い家賃がなくなります。今まで賃貸の家賃として10万円払っていたならば、年間120万円の支払いがなくなる≒年間120万円のキャッシュフロー改善となります。しかももし収入が120万円増えると税金を取られてしまいますが、支出が120万円減る場合は100%その恩恵を受けることができます。
また賃貸併用住宅の場合の融資は住宅ローンであるため非常に金利が低く、アパートローンと比較して銀行への支払い利息が大きく減ります。例えば5000万円を借り入れて30年で返済する場合、住宅ローンの金利1%ならば支払利息総額は789万円ですが、アパートローンの金利2.5%だと支払利息総額は2,112万円にもなります。支払利息に3倍近くの差があるのです。
資産価値とローンの借入残高の関係
さらに賃貸併用住宅で特筆すべきは、着実な資産形成ができることにあります。ここで言う「資産」とは、賃貸併用住宅を仮に売却した場合の価格=資産価値として、資産価値からローンの借入残高を差し引いた金額、つまり賃貸併用住宅を売却してローン残高を全て返済した後に残る金額の事を表しています。建物は築年数が古くなるとともに価値が下がっていき、住宅ローンを返済し終わる新築から30年後や35年後には価値はほぼゼロとなります。一方で土地は劣化しないため、景気変動を除けば資産価値は保たれます。ただし日本は人口減少などで需要の低い郊外の土地はどんどん地価が下がっていますから、資産価値を維持できる土地かどうかは注意が必要です。
ここで住宅ローンの借入残高にも注目します。住宅ローンは金利が低いおかげで返済初期から元本返済がドンドン進みます。そのため建物価値の下落分よりもずっと早くローンの返済が進んでいくので、時間が経てば経つほど不動産の資産価値はあまり変わらないままローンの借入残高が減り、資産形成ができる事になります。
もしローン返済期間の途中で売却せず最後まで返済し続ければ、建物価値はゼロですが土地がまるまる資産として残ることになります。しかも毎月の住宅ローンの返済は賃貸の入居者が支払ってくれて、自分はほとんど金銭的な負担なく自宅に住み続けるだけで自然に資産形成できてしまうのです。
資産形成できるとどんな役に立つのか
賃貸併用住宅によって作りだした資産はどう役立つのでしょうか。分かりやすいのは不動産を売却して現金化することです。ただし不動産の売却により利益が出れば税金がかかりますし、仲介手数料や各種経費がかかるため、蓄えた資産をまるまる現金化できるわけではありません。売却以外にも現金を引き出す方法があります。不動産の評価額からローンの借入残高を差し引いた「純資産」は銀行にとって担保価値がありますから、担保として活用すれば借入金という形で不動産を売却せずに現金を引き出すことができます。もちろん借入には金利がかかりますが、他の不動産に引き出した現金を投資すれば、さらなる家賃収入を得ることも可能です。
また住宅ローンを返済し終わったあとも賃貸併用住宅は残りますから、賃貸し続ければ得られる家賃が多少減ったとしても多くの現金が毎月手元に残るようになります。不動産という形で資産形成ができることで、売却して現金化もできるし、借入によって再投資もできるし、賃貸物件として運用することで収入を得ることもできるようになるのです。
賃貸併用住宅は利回りよりも資産作りがメイン
不動産投資で効率よく収益を手に入れるには利回りの高い物件への投資が必要ですが、それは手元に入ってくる現金が多いという一面を表しているだけに過ぎません。運営上の経費が少ないおかげで家賃収入が多くなくても利益を確保できる物件もありますし、利回りが低いけれど資産価値の高い物件を順調にローン返済していれば、現金ではなく不動産の形で資産形成できていることになります。賃貸併用住宅の場合は利回りという観点だけで見ていては、実質的な利益を得るチャンスを見逃してしまいます。他の条件が同じならば利回りが高いほうが良いに決まっていますが、不動産は全く同じ条件の物件は存在しません。不動産の資産価値の高さや、ローンを低い金利で借入できるか、運営費が少なくできるかなど、最終的に残る利益や得られる資産額を左右する観点はたくさんあります。
あくまで利回りの高さは一つの要素として捉えることで、賃貸併用住宅のメリットについて正しく理解できるようになります。利回りは低いけれども他の観点では非常に優れた不動産投資の手法として、普通の人が何千万円という資産形成ができる武器として、賃貸併用住宅をぜひ有効に活用してもらえればと思います。