賃貸併用住宅といえば、1990年代までは土地活用を考える地主たちが建てている珍しい集合住宅の一種でした。ただし2000年代以降、土地を持たない(地主ではない)普通の会社員や個人事業主でも、アパートや一棟マンションなどへの不動産投資ができるという認識が広がり、賃貸併用住宅も有効な不動産投資の手法の1つとして広がっていきました。
現在では土地なしの状態から賃貸併用住宅を建てる土地を探し、注文住宅を建てるように賃貸併用住宅を新築する人が増えています。こう書いている私自身も土地を持っていない一般的な会社員でしたが、賃貸併用住宅を建てるための土地探しから始め、2015年に完成した賃貸併用住宅に住んでいます。
私の場合は2007年から不動産投資を始めており、賃貸併用住宅は6つ目に取得する不動産(投資物件)となるため、それまでに得た知識と経験をフル活用して土地探しから新築を進め、住み始めてからの賃貸経営も順調に行うことができています。
今回は10年間に渡って蓄積した不動産投資や賃貸経営に関する知恵をベースに、賃貸併用住宅を土地なしから建てるまでの流れと重要ポイントを公開します。これから賃貸併用住宅を新築したいと考えている方に役立ててもらえると嬉しいです。
賃貸併用住宅を土地探しから始める場合の全手順
地主と違って土地がない場合、土地+建物を同時に計画・契約・購入を進めながら住宅ローンの借り入れまで打診しなければならないため、メインの相談先となるプロに仕切ってもらいながら新築計画を進める必要があります。まずは手順全体を見てみましょう。主に打合せ・契約・支払いが発生する工程を記載しています。
- プロに相談して賃貸併用住宅のおおまかな建築プランを決める
- 企画している建物が建てられて賃貸需要がある土地を探す
- 土地を見つけたら買付けを行う
- 具体的な建築プランを作成する
- 建物価格の概算見積もりをハウスメーカーに出してもらう
- 想定される家賃収入と総取得費用から土地を購入するか判断する
- 頭金を準備して土地の契約をする
- 複数の銀行に住宅ローンの審査を進める
- 住宅ローンの審査が通ったら土地の決済と引き取りを行う
- 古家が残っている場合は建物の解体を行う
- ハウスメーカーや工務店と工事請負契約を交わす
- 工事の着工と同時に契約金額の1/3を支払う
- 建物の上棟と同時に契約金額の1/3を支払う
- 建物の引き渡しと同時に契約金額の1/3を支払う
建物の引き渡しの後はすぐに空室となっている賃貸住宅部分の入居者を募集する活動が始まります。自分や家族の引っ越しも必要ですし、やることは色々ありますが、賃貸併用住宅の新築の流れは上記でいったん完了です。
全体像を見てすぐに気付くと思いますが、後半は決まった事を順番に片付けているだけで、重要なポイントは前半に偏っています。賃貸併用住宅のメリットを最大限に生かすため特に重要なポイント3つを確認していきましょう。
賃貸併用住宅の方針は相談パートナーとなるプロの考えで決まる
いきなりですが、最初に必要な相談パートナー探し、つまり『賃貸併用住宅の企画』が一番重要なポイントとなります。企画次第で賃貸併用住宅から受ける恩恵の大小が決まるからです。相談パートナーとなるプロは以下の通りです。
設計事務所・建築家
建築プランを考えるプロですので、賃貸併用住宅という一般的には珍しい建物の相談先としては最も安心できます。特に土地なしという条件から建てるとなると、土地を見つけてはその土地に合う建築プランを考えてもらい、ダメだったらまた新しい土地を探して…と何度も建物の企画を考えていく必要があるので、建物を設計できるプロがパートナーだと判断が早くできます。またハウスメーカーや工務店との付き合いがあるため、コストパフォーマンスのよい発注先を知っていますから、素人が必死でハウスメーカーを回るより楽に質の高い住宅を安く手に入れることができます。
ただし他にはない建物を追求しようとして凝った設計をするような設計事務所は、設計費も建築費も高くなり収益性が悪化しますから避けましょう。ただし凝った建物にすることで、高い家賃を得るという賃貸経営の戦略ならば問題はありません。
不動産会社
設計事務所は建物を建てるプロですが、不動産会社は土地探しから資金計画、賃貸併用住宅を取得する目的といった計画全体を取りまとめるプロです。不動産はとても高額ですから、人生設計と合わせて考える必要がありますし、購入するための資金調達や買い手売り手との調整など、物事を全体を把握しながら進める能力が必要だからだと思います。特に最近は賃貸併用住宅を専門的に扱う不動産会社が増えており、そうした専門的な会社には賃貸併用住宅の設計に慣れた社内設計者or提携建築士がいるおかげで、土地探し~建築プラン~収支検討までをトータルでアドバイスしてもらう事ができます。また賃貸併用住宅に向いた土地情報が集まりますから、土地探しも有利に行うことができます。
こうした賃貸併用住宅を専門的に扱う不動産会社には、不動産の仲介手数料とは別にコンサルティング料なども支払う必要がありますが、設計事務所に設計を依頼するときと比べて設計料を安くすることができ、トータルでも安くなる場合が多いです。
ただし人気の会社では順番待ちという状態になっており、自分から動かないとチャンスが巡ってくるのは3年後、なんて事になってしまう場合もあります。
ハウスメーカー
先に結論を書いてしまうと、土地なしの人が賃貸併用住宅を建てるための相談先としては向きません。私自身は7社に相談しましたが、土地を持っていないと言うとほとんど話を聞いてもらう事ができず、良い土地が見つかったらまた来て下さいと言われてそれきりの会社がほとんどでした。ただし賃貸併用住宅を商品ラインナップとして持っている会社が意外に多く、具体的な間取りが書かれた建築プラン例や、実際に賃貸併用住宅を建てた人たちへのインタビュー記事など、多くの情報を得ることができました。
会社や担当者によっては真剣に相談に乗ってくれるところもあると思いますが、大手ハウスメーカーほど地主以外の土地を持っていない人にはあまり親切ではないという印象です。
以上3大相談パートナーを記載しましたが、土地なしから始めるならば、設計事務所か専門的に賃貸併用住宅を扱う不動産会社が良いと思います。特に不動産会社は建物が完成した後の賃貸運営まで相談できますから、賃貸併用住宅が始めての不動産投資になるという人には一番頼りになるプロだと言えます。
土地選びで資産形成と毎月の収益がほぼ決まる
相談パートナーとなるプロが決まれば、希望する賃貸併用住宅を建てるためにはどんな建築プランになり、その建物を建てるのに必要な土地の条件を具体的に教えてもらえます。特に不動産会社を相談先としている場合は、賃貸併用住宅に向いた土地の情報が出て来るたびに連絡をもらう事もできます。
詳しくは賃貸併用住宅で資産形成する方法を解説した別記事で確認してもらいたいですが、基本的には都市部、駅近、整形地、ブランド駅など、高くても価値のある土地を選ぶことをオススメします。
そもそも賃貸併用住宅の最大のメリットは家賃収入を得られることですから、賃貸需要の旺盛な都市部・駅近を選ぶことは必須ですし、将来は日本の人口が減少して家余りが起こると言われている現状では、資産性のある土地は少ないでしょう。
ただしこれも戦略しだいでは郊外、駅遠、不整形地も選択肢になりえます。安く購入した土地に収益性の高い賃貸併用住宅を建てることで、資産性はそこそこでも毎月の家賃収入を最大化すれば、万が一土地が値下がりしても毎月積み上げた収益が十分にカバーしてくれます。
具体的な建築プランを考えるには賃貸経営の方針が必須
土地から探して賃貸併用住宅を建てる場合、都市部だと地価が高いためどうしても規模の小さな建物しか建てることができません。自宅+賃貸1戸~3戸が限界でしょう。もし都市部で賃貸3戸を確保しようとするなら旗竿地などの割安な広い土地か、近隣商業地域や3種高度地区など延べ床面積や空間を広く確保できる条件の土地が必要です。
賃貸併用住宅の醍醐味は家賃収入を得ることですから、限られた賃貸住宅部分から最大限の収益を引き出すためにも、賃貸部分をどうすべきか賃貸経営の方針を考えて決めましょう。
狭い部屋を多く作り家賃収入を最大化する代わりに、競争力の弱い賃貸住宅となるリスクは覚悟する方針や、完全分離型の二世帯住宅に近い建物にして、ファミリーに長く安定して住んでもらう方針など、まさに賃貸経営の戦略によって建築プランは全く変わってきてしまいます。
この賃貸住宅の方針についてもプロから良いアドバイスをもらえるかどうかで、賃貸併用住宅で得られる利益は大きく変わってくることになります。
土地と建築プランが決まればあとは着実に取り組むだけ
上記の3大ポイントによって建物プランが決まったあとも、ハウスメーカー・工務店選びや、住宅ローンの借入先の銀行・金融機関選び、金利プランの選択(変動金利か固定金利か)など、様々な場面で重要な意思決定をする必要がありますが、企画の内容は決まっているのであとは各場面で最善の選択をするだけです。
それぞれの場面における考え方を解説した別記事を参照してください。特に住宅ローンについては選択しだいで収益が大きく変わりますから、メリットとデメリットをしっかりと勉強してから自分に合った選択をしたいものです。
実は有利な一面もある「土地なし」で始める賃貸併用住宅
土地がないと以上のような多くの手順を地道に進んむ必要があるため大変ですが、地主のような土地がある人と比べて有利な一面も実はある、というお話しを最後にお伝えします。
人生経験が長い人ほど分かると思いますが、最初に土地を持っているとその土地への愛着や未練によって、立地的に賃貸併用住宅(賃貸住宅)に向かないような土地であっても建物を建ててしまい、結果的に収益をほとんど得られなかったり大きな損失を出したりしてしまうことが良くあるのです。
本来なら賃貸併用住宅に向かない土地は売却し収益の見込める土地を探せばいいだけなのですが、先祖代々の土地など簡単に売却などできないし、あそこの家は土地を手放したと地域社会でいらぬ噂を流される可能性もあり、以外にも土地の所有者にはしがらみが多いのです。
一方で土地探しをゼロから始める人は何のしがらみもなく落ち着いて土地を選ぶことができ、資産性の高い土地に満足のいく賃貸併用住宅を建てることができるのです。土地持ちに比べて土地なしは不利などと思いこまず、自分の置かれている立場を生かして、希望する賃貸併用住宅を手に入れていきましょう。