自宅を購入しようと検討するとき、住宅ローンの借入でローンシミュレーションを行う機会が何度もあると思います。ただシミュレーション結果の数値のうち、毎月の返済額だけ見ていては住宅ローンの損得が分からず、どんな借り方をすると得をするのか見抜くことが出来ません。
そこで今回は、ローンシミュレーションを行う際に知識として持っておくと得をする5つのコツをお伝えしようと思います。ローンシミュレーションに関係する知識があれば、自宅を購入したあとのお金の流れや損得がはっきりと分かるようになります。
ではさっそく順番に5つの知識とコツを見ていきましょう。
元利均等返済と元金均等返済
住宅ローンに関する基本として多く語られているため、言葉と損得についてはある程度知っている方が多いと思います。ただ、実践的な使い方や返済そのもの以外への影響については情報が少ないため、今回まとめて解説していきたいと思います。なお私は過去6回の不動産購入において、元利均等返済と元金均等返済の両方を経験しています。
元利均等返済
通常の住宅ローンの返済方法と言えばこの元利均等返済です。初回の返済金額から最後の返済金額までが一定となる返済方法です。もちろん途中で金利が変更になるなど借入条件の変更がなければの話です。
毎月の返済金額は一定ですが、金額の内訳を元金返済分と利息返済分に分けて見ると、元利均等返済の特徴が分かります。最初のローン返済は利息部分が多くを占めており、元金返済は多くありません。
最近の住宅ローンは金利が低いため初回から元金返済の割合が割と多いですが、金利5%と高い状態で35年などの長期返済を行うと、なんと初回の返済金額のうち80%以上が利息分となるほど、元金を減らすスピードが遅くなります。
最初の頃の元金返済が少ないという事は、住宅ローンの借入金額が減らないということで総支払利息額が多くなります。ローンの貸付を行う銀行からすれば、儲かるということです。
そのため元利均等返済しか返済方法がない銀行がほとんどとなります。もし元金均等返済ができる銀行だとしても、申し出なければ銀行にとって儲かる元利均等返済で話を進められることになります。
元金均等返済
元金均等返済は毎月の返済金額の"元金"が一定になっている返済方法です。元利均等返済は返済金額の総額=元金+利息が一定になっており元金と利息の返済額が両方とも変動しますが、元金均等返済だと元金が一定で利息だけが徐々に減っていくようになっています。
特徴として元利均等返済に比べて初期の頃から元金返済が早く進むため、総支払利息額が少なく済むようになっています。ただし返済の前半では毎月の返済金額が元利均等返済より多くなるため、返済金額に余裕がない場合は資金繰りが苦しくなるというデメリットもあります。
また元金均等返済は一部の金融機関や銀行でしか取り扱いがない住宅ローンの返済方法でもあります。事業用のローン返済方法では選択できることが多いのですが、低金利の住宅ローンで元金均等返済を行うと、ただでさえ少ない銀行の儲けが減ってしまうため、住宅ローンで元金均等返済を選択させてくれる銀行は少ないです。
もし住宅ローンを借り入れる銀行で選択できて、手元にいくらかの預貯金があり資金繰りに困らないならば、元金均等返済のほうが総支払利息額が少なく済むので得をします。銀行側は収益が減るので嫌がりますが、借入を行う私たちは得をするのでもし元金均等返済ができるならば忘れずに選択しておきましょう。
ただし最近の低金利によって住宅ローン控除と住宅ローン金利との間で逆ザヤが発生しています。そのため制度の歪みを突くことで元利均等返済のほうが得をする場合もあるので、十分にシミュレーションを行ってみることが大切です。
変動金利と固定金利
なぜか変動金利と固定金利はどちらが得か、という論調で記事が書かれていることが多いですが、どちらが得かはハッキリしています。間違いなく変動金利のほうが得をします。金利が上がるリスクがある、将来金利が上がったら損をする、などの主張がありますが全く現実を考慮していない考え方です。
金利が上がる場合、住宅ローンが返せなくて破たんするほどの金利上昇が起こるとしたら…実は給料などの収入も増えている可能性が高いです。金利を上げるということは景気が良いので、金利が上がるほど景気の良い状況にいられることは嬉しいことなのです。
またそれでも金利が上がったら支払い利息が増えて損をするじゃないか、という考えも間違っている場合のほうが多いです。これは住宅ローン返済のシミュレーション計算をしてみるとすぐに分かります。
固定金利
例えば3000万円を元利均等返済の35年ローンで借り入れる場合を考えます。まずは最近のフラット35で固定金利1.52%で借り入れることを考えてみましょう。この場合の返済総額は約3870万円。支払い利息は870万円です。日本の金利が上がったとしても、固定金利は返済額が変わらないので繰り上げ返済をしない限りシミュレーション通りになります。
変動金利
今度は変動金利を考えてみます。同じく最近の平均金利を調べて見ると、主要銀行で0.71%、ネット銀行で0.59%です。今回は両社の平均である0.65%を基準に考えてみます。もし金利が変わらなければ返済総額は約3355万円、支払い利息は355万円です。固定金利の半分以下の利息です。ここで金利が上がる場合を考えてみましょう。
変動金利で将来金利が上がる場合
返済期間35年のうち、最初の10年は当初の0.65%だったものの、11年目から金利が4倍の2.2%に上がってしまった場合を計算します。変動金利を選択した人にとって大失敗と言えそうな状況です。
当初10年間の金利が0.65%・残り25年間の金利が2.2%とした場合の3000万円の返済総額は約3835万円、支払い利息は835万円です。なんと固定金利の支払い利息870万円よりも少ないのです。返済期間のうち25年という7割を占める期間で、金利が4倍にも跳ね上がったとしても(!)変動金利のほうが得をします。
金利選択のコツ
実は返済総額を減らして得をするコツは、最初のうちにいかに元金を減らせるかということなのです。元金、つまり借金の金額を減らせば当然ですが支払い利息は減ります。元利均等返済と元金均等返済も同じ理由で、最初のうちに元金を多く減らせる元金均等返済のほうが支払い利息が少なくなるわけです。
同じ理屈で変動金利は返済開始直後に利息支払いが少なく元金返済が多いため、順調に元金=借金が減っていきます。元金が減れば減るほど支払い利息は減るため、途中で金利が上がっても元金が少ないために支払い利息が多くならないのです。
金利の選択でどちらが得かという場合、当初の金利が安いほう、つまり変動金利のほうが圧倒的に有利になるということになります。しかも変動金利は繰り上げ返済の手数料がかからないことが多いので、もし金利が上がったら預貯金を住宅ローンの返済に回してしまうことで、簡単に支払い利息を減らし固定金利より得することができるのです。
繰り上げ返済の種類と効果的な活用方法
繰り上げ返済は支払い利息を減らすことができるので、住宅ローンを借りている方は繰り上げ返済を頑張ろうと考えていることが多いと思います。実際、毎月の節約により貯金を増やし、住宅ローンという借金を減らす行動は素晴らしいと思います。
ただし私の場合は繰り上げ返済は一切行いません。もし繰り上げ返済をする時があるとしたら、借入残高を一括返済できる場合だけです。この場合以外では繰り上げ返済をすることは私にとっては"利益を得る機会を失う"ためです。
繰り上げ返済と資産運用
なぜ私が住宅ローンの繰り上げ返済をしないかと言うと、私の場合は賃貸併用住宅を始めとした不動産投資や、確実に数%の収益を得られる金融商品で資産運用を行っているため、手元にある現金を繰り上げ返済に使ってしまうよりも、不動産や金融商品で運用するほうが収益を上げられるからです。
私の住宅ローン借入金利は約1%ですが、投資や資産運用により運用利回りが1%を超えるならば投資をするほうが得をすることになります。もちろん経費や手数料、税金などを支払って残った最終的な手残りでの運用利回りが住宅ローン金利を超えることが条件です。見方を変えれば住宅ローンの繰り上げ返済は、ローンの借入金利が1%ならば年利回り1%の金融商品を運用するのと同じ効果となるので、1%より有利な運用方法があればそちらを選択したほうが良いという単純な話です。
ただし安易に住宅ローンより運用利回りが高いといって現金を投資に回すのは危険です。不動産投資を行って修繕費などの出費で損をしたり売却損を出したり、利率や利回りが良く見える金融商品で元本割れをしてしまったりする可能性があるので、上手に運用できる投資手段や資産運用がない場合はコツコツと住宅ローンの繰り上げ返済を行うほうが良いでしょう。
住宅ローンを返し終わるメリット
ちなみに私が住宅ローンの借入残高を一括返済できる場合ならば繰り上げ返済をする理由ですが、住宅ローンを返済し終わることで実績ができると同時に、住宅ローンという最高に優遇されたローンをまた使うことができるようになるからです。賃貸併用住宅や不動産投資に興味がある方は覚えておいて損はないので、繰り上げ返済がもたらす影響をぜひ覚えておいてください。
返済期間と金利と返済額の関係
自宅を購入したり建てたりする場合、多くの人は購入できる限度額を計算してその金額の範囲内でマンションや一戸建てを探すと思います。例えば毎月のローン返済額は10万円が限度だという場合、厳しめの試算としてフラット35の最新金利である1.52%の固定金利で35年ローンでの借入可能額を計算すると、3255万円という金額が出てきます。ここで住宅購入に使える頭金が800万円あるならば、約4000万円までの物件を購入できるということになり、この金額の範囲内で一番良いマンションや一戸建てを探す場合が多いでしょう。
ところが様々な物件を見ているうちに当初の予定より少し高い4500万円で、ほぼ希望通りのマンションが見つかったとします。このマンションを購入しようとするならば、頭金を500万円多く準備するか、住宅ローンの借入を500万円増やすか、両方を併用するかして足りない金額を準備することになります。
同じ月間の返済額で借入金を増やす選択肢2つ
大抵は住宅ローンを多めに組んで残りの500万円を調達することになりますが、ここで問題が発生します。住宅ローンの借入可能額を超えるという事です。このまま単純に借入金額を3200万円から3700万円に増やすと、同じ条件での月間の返済金額は9.8万円から11.3万円へと月間で1.5万円返済額が増えます。
この毎月の返済額が増えるのが難しい場合、固定金利から変動金利に変更したり、ネット銀行の住宅ローンを利用したりしてより低い金利で住宅ローンを借りるか、返済期間をより長くして毎月の支払い金額を減らすことになります。まずは正統派である金利の低いローンを借りる場合を考えてみます。
実は最近の変動金利の平均値である0.65%にすることで、同じ毎月10万円の返済での借入可能額を3700万円まで増やすことができます。3700万円・35年間の借入で毎月の返済額は98519円となり、当初想定の10万円の返済額の範囲内となります。このパターンを【借入A】とします。
ただしどうしても固定金利が良い場合、フラット50という50年返済の住宅ローンを選択することもできます。フラット50の最新金利、融資率9割以下の金利2.09%で考えてみましょう。この場合も月間返済額は99448円となり、10万円以内に収まりました。このパターンを【借入B】とします。
総支払利息で把握するローン選択の損得
金利を下げた【借入A】と、借入期間を伸ばした【借入B】では毎月の返済額は約10万円と同じですが、住宅ローンを返し終わる時にはものすごい差が生まれます。総支払利息を計算してみると…
- 【借入A】3700万円 変動金利0.65% 借入35年間:総支払利息 約 438万円
- 【借入B】3700万円 変動金利2.09% 借入50年間:総支払利息 約2267万円
なんと総支払利息に5倍以上の差ができています。1800万円以上も余分に利息を支払うことになるのです。これは考えてみれば当然で、50年返済にすると毎月10万円の返済額を15年間(180回分)も余分に銀行や金融機関に支払っているわけですから。
なお返済期間を伸ばすと銀行から見て返済されないリスクが高まるので借入金利は高くなります。おまけに返済期間を伸ばすと元金返済のスピードが遅くなり元金=借金が減らないため支払い利息もどんどん増えてしまいます。
毎月の住宅ローン返済額を抑えるために、借入期間の長期化はできる限りやらないようにしましょう。ただし住宅ローンの借入金利を上回る利回りで資産運用できる場合はまた別の結論になりますが、それはまた別の機会にお伝えします。
低金利で生まれた住宅ローン控除による逆ザヤ
住宅ローン控除によりマンションや一戸建てを購入すると税金が還付されることは聞いたことがある方がほとんどでしょう。ちなみに賃貸併用住宅でもちゃんと住宅ローン控除は受けられます。ただ今回の話は住宅ローン控除について詳しく見ていくのではなく、住宅ローン控除と低金利の住宅ローンの借入によって生まれた制度の歪みについてお伝えします。
住宅ローン控除は年末時点での住宅ローンの借入残高の1%を所得税などから控除するという制度です。控除できる期間は最大10年間で400万円です。1年当たりでは最大40万円の控除です。住宅ローン控除の利用者は多くの場合サラリーマン世帯でしょうから、控除によって税金が還付されることになります。
これは4000万円の住宅ローンを借りると毎年1%に当たる40万円もらえるという事です。一方で住宅ローンを変動金利で借りると平均で0.65%の金利なので、元金を全く返済しない場合だと26万円を利息として支払います。つまり住宅ローンを借りることで40万円-26万円=14万円を利益として得ることができてしまうのです。
住宅ローンという形で借金するとお金をもらえるという異常な状況になっているのです。ただでさえ超低金利で借り入れができる上に、借金をしていると利益まで得られる日本の住宅ローンがいかに優遇されているかよく分かります。
この制度を上手く利用するならば、住宅ローンを金利1%以下となる変動金利で借りて、住宅ローン控除が受けられる借り入れ当初の10年間は繰り上げ返済をしないことです。住宅ローン控除を利用できる限り、元金は減らさないほうが得をするわけです。
もし繰り上げ返済をしたい場合は、10回目の住宅ローン控除が終わった後に返済することで最も効果が大きくなります。
ローンシミュレーションに関する知識まとめ
住宅ローンのシミュレーションを行う場合は、以下の5つのポイントに気を付けて借入や返済を考えてみて下さい。
- 選べるなら元金均等返済のほうが得だが、現実的には元利均等返済しか選択できない。
- 固定金利より変動金利のほうがほぼ間違いなく得をする。
- 繰り上げ返済もいいが、住宅ローン金利より高い運用利回りで資産運用できるなら繰り上げ返済より投資するほうが良い。
- 返済期間を伸ばすと支払い利息が急激に増えるので資金繰りが多少苦しくても気軽に長期化させてはいけない
- 住宅ローンを1%未満の金利で借りることができたら10年間はできるだけ元本を減らさないようにして税控除(還付金)を受ける