よくSUUMOなどの不動産雑誌やウェブサイトでの記事や資産運用関連のブログで語られる事が多い「賃貸に住む vs 自宅購入 どちらが得か」という疑問があります。ずっと議論されているテーマなので様々な意見が飛び交っていますが、この問題について私なりの明快な答えを持っています。
それは『不動産の知識がある人は購入が得、不動産の知識がない人は賃貸が得』というものです。つまり需要が伸びて資産価値の上がる立地を見極め、割安な不動産を探し出して購入し、自宅として住む間にリフォーム等で資産価値を上げ、上手く希望価格で売却できる知識を持っていれば、自宅は購入するほうが得をします。こう書くとハードルが高そうですが、どれか1つだけでも極めていれば十分得をすると思います。
自宅投資という言葉もあるぐらいですから、自宅を購入して資産を作り出すことは実際に可能です。私も賃貸併用住宅という自宅を新築(取得)することで、資産作りができている事を資産価値の計算をすることで実感できています。賃貸併用住宅でなくても、普通のマンションや一戸建てでも資産作りは可能です。
ところがほとんどの人が前述したような立地・購入・リフォーム・売却に関する知識が足りないため、自宅用不動産の購入により大きなリスクや隠れた損失を抱えています。賃貸ならば住宅ローンという多額の借金もなく自由に引っ越しもできるのに、知識がないまま自宅を購入してしまうことで知らないうちに損失を抱えているという恐ろしいことになります。
売却しようとして初めて物件の評価損に気付く
例えばマンションや一戸建てを購入したあと、転勤や家族構成の変化などで自宅を売却することになったところで危険な状況は表面化します。いざ物件の売却金額を査定してもらったところ、ローン残高より低い金額でしか売却できない!なんて事態がかなりの割合で発生しています。
こうした悲劇を回避するには、自宅の資産価値の推移を計算する方法を知っておく必要があります。賃貸と違って自宅を購入すれば資産作りになる、という意見はよく聞きますが、実際にどれだけの資産を作り出すことができるのか試算方法を理解している人はほとんどいません。資産価値の計算方法も知らないままに自宅を購入し、知らないうちに損失を抱えることだけは回避しなければなりません。
では実際に「自宅用不動産での資産作り」を計算するにはどうしたらよいのでしょうか。今回の計算は同じような部屋を賃貸で借りた場合を基準に、どの程度の資産価値を作り出せているかという金額を計算していきます。
築年数別の不動産売却価格を把握する
まずは購入する不動産の築年数による価格推移を確認します。例えば70平米・品川駅徒歩10分の新築マンションを購入するとします。アットホームやSUUMO、HOME'Sなどの不動産物件の検索サイトで売り出し価格を見てみましょう。以下は私が実際に試してみたときの結果です。
最も物件情報の豊富なアットホームで中古マンションのページに行き、品川駅・徒歩10分以内・65平米以上・築10年以内で検索をしてみると、5780万円~8000万円の23件の中古マンションが見つかりました。広さが80平米以上だったり、土地権利が定期借地権だったり、階数やバルコニー向きが違ったりするのですが、安くても6000万円前後だということが分かります。
これを今度は築20年以内に変更してみます。すると今度は床面積の近い65~90平米前後までで4800万円~9780万円まで41件の物件が見つかりました。価格の下限が5000万円前後まで下がっています。こと後も同じように築30年以内・築40年以内と変えてみたのですが、新しい物件が増えても4800万円~9780万円の価格帯は変わりませんでした。
さらに築年数の指定なしにしてすると築43年4690万円のマンションが見つかりましたが、賃貸中のマンションのため参考になりません。賃貸中のマンションは自宅としてすぐ使えないうえに住宅ローンを利用して購入できないため、売り出し価格が安くなっているからです。
これで築年数の変化によるマンション価格の下限が見えてきました。さらに新築での価格を調べます。品川駅徒歩10分での新築マンションで70平米に近いマンションは1つですが、7980万円の販売価格を確認できました。これらの価格変化を図にすると以下の図のようになります。
少し極端な価格推移となってしまいましたが、都心部の駅近マンションにおける価格推移の特徴が分かりやすく出ています。新築から築10年までの間の資産価値=売却価格の下落が最も激しく、築10年から築20年もそれなりに価値の下落があり、築20年を超えてからの下落はゆるやかになる、という価格推移です。
これはマンションや一戸建てといった不動産だけでなく、自動車やバイク、パソコン、家電といった消耗品は全て、新品から中古品への価格推移は同じようなものになります。ただしこの価格の下落ペースは不動産の種類によって変わりますが、これはまた別の機会にお話ししましょう。
住宅ローンの残高の推移を把握する
次に負債である住宅ローンの残高を確認します。品川の約8000万円の新築マンションは正社員2人の共働き夫婦でもなかなか購入できる価格のマンションではないですが、このまま計算をしてみましょう。現金500万円を頭金として、さらに500万円を諸経費、7500万円の住宅ローンを借り入れるとします。つまりマンション購入のために現金1000万円を最初に支払います。
新築の時点、つまり住宅ローンを借り入れたときのローン残高は7500万円です。これを借入期間35年、最新のふらっと35の固定金利1.52%、元利均等返済として10年後、20年後、30年後の住宅ローンの残高を確認します。
新築時ローン残高 7500万円
10年後ローン残高 5747万円
20年後ローン残高 3706万円
30年後ローン残高 1330万円
35年後ローン残高 0円
マンションの売却価格からこのローン残高の差が、マンションを売却した時に得られる現金となります。さらにここから仲介手数料や不動産譲渡所得税を支払った残りが、実際に手元に残る金額となります。ただしここまで金額はあくまでマンション売却に関する金額の計算です。
自宅購入による毎月の収支を計算する
マンションを売却するまでに、毎月または毎年支払う金額があります。逆に賃貸に住んでいれば支払う必要があった家賃支払いがなくなるという効果もあります。さっそくマンションに住んでいる間の収支を計算しましょう。
まずは賃貸で同じようなマンションに住んだ場合の支払い家賃を調べます。これはSUUMOなどで簡単に調べることができます。品川駅徒歩10分以内70平米前後では、以下のような賃貸の金額となりました。
新築~築10年 24万円
築10年~20年 21.5万円
築20年~30年 18.5万円
築30年以上 18.5万円
毎月この金額を支払わずに済んでいると考えることができます。さらに新築時点で購入してから当初10年間は、住宅ローン控除により毎年最大40万円の控除を受けることができます。今回の試算の場合は10年間の間ずっと40万円÷12ヶ月=3.3万円分の減税効果を得られます。
一方で毎月の支出はマンションの場合は管理費と修繕積立金です。70平米前後のマンションであれば一戸当たり3万円前後になります。あとは住宅ローンの返済金額のうち利息分は支出と考えられますから、ローン借入直後だと月9.5万円となる利息分の支払い金額も、徐々に減ってはいきますが毎月の支出として計算します。
さらに年に一回、固定資産税・都市計画税が課税されます。これは土地と建物の評価額の割合などにより大きく変わりますから、ざっくりと新築~築5年目までは減税を含めて年間25万円、築6年目以降は年間40万円とします。これを月割りすれば毎月の負担金額が分かります。
他にも火災保険の月割りなどがありますが、ちょっと多めに見て月間5千円の支出とします。こうして各項目を算出することで毎月の“収支”を計算してみることができます。
賃貸に住んでいる場合に毎月支払わなければならない家賃を収入、支払い利息・固定資産税・都市計画税・マンション管理費・修繕積立金・火災保管その他を支出として毎月の収支を計算すると、35年間の間に毎月約10万円の資産作りができることが分かります。特に最初の10年間は住宅ローン控除による効果が大きいです。
売却金額・ローン残高・毎月収支累計を合計して資産価値を計算する
この毎月の蓄積資産の累計に加えて、マンション売却金額から住宅ローンの残高を差し引いた手残り資金、マンション購入時に支払った現金を加えると、自宅の購入により作り出せている資産価値を計算することができます。
(実際にマンションを売却する場合はさらに仲介手数料や譲渡所得税などの支払いが発生します)
マンションを購入した直後の資産価値は諸費用の分だけ損をすることになりますが、住宅ローン控除などの効果により毎月着実に資産を作り出すことができています。ちょうど4年後には諸費用分のマイナスを取り戻し、5年目から資産を蓄積することができる試算となります。
10年後には約800万円の資産価値、20年後には約2900万円の資産価値、30年後には約6200万円の資産価値を作り出すことができます。ただし今回は品川駅徒歩10分という、マンションの築年数が古くなっても売却価格が下がらない地域だからこそ出てきた数値です。
さらに今はマンションバブル言えるほど、都心のマンションは値上がりをしており、不動産の売買相場が高く売却環境が良いために高めの試算となっています。もし不況になり不動産価格が下がればマンションの売却価格も下がります。他にもマンションの管理費負担の増加など、考えられるリスクはたくさんあります。
今回は資産価値の計算方法のみでしたが、この計算方法を知ることで『資産作りの重要なポイント』を理解することができます。資産価値を増やすためのポイントとテクニックはまた別の機会にご案内しましょう。