中古物件で見つけた賃貸併用住宅の失敗例


賃貸併用住宅を取得しようと決意してから新築用の土地を契約するまで、私は土地探しと同時に中古の賃貸併用住宅もたくさんみてきました。幸いにも首都圏に住んでおり中古物件の賃貸併用住宅が他の地域よりも豊富にあったので、様々な土地に建つ賃貸併用住宅の事例を現地で見ることができました。

そうして売りに出されている賃貸併用住宅の中には、失敗したために売りに出されている物件もいくつかありました。今回はそんな売り出し物件の中で見つけた賃貸併用住宅の失敗例について具体的にお伝えしていきます。


広くて割安な土地を発見


その物件を見つけたのは、賃貸併用住宅を購入しようと探し始めてから半年が経った1月初旬、お正月明けの頃でした。物件情報を見つけたのが木曜日で、自宅の近所にある物件だったのでその週末に妻と1歳の長男を連れて見に行くことにしました。

ところが翌日の金曜には首都圏では珍しい量の大雪が降り、雪の中で1歳の子供を乗せたベビーカーを夫婦で必死に押していきながら現地の賃貸併用住宅を見に行きました。物件は都心に近い立地ですが閑静な住宅街の中にあり、あまり利用者数の多くない沿線の駅から徒歩4分、さらに近くには役所などがあり暮らしやすそうな環境でした。

現地に着いてみるとかなり大きな賃貸併用住宅が建っています。実はこの物件、賃貸併用住宅ではなく土地として販売されていて、建物が残ったままの古家付き土地として販売されていたのです。ネットで土地情報を見つけたとき、写真に賃貸併用住宅らしきものが写っていたのですぐに不動産会社に問い合わせを入れ、資料を送ってもらいました。

土地は約140平米もあり、なんと南北の2面で道路に接しています。もし賃貸併用住宅を建てるならば北側と南側で入口を完全に分けることができます。ただし古家として建てられていた賃貸併用住宅は北側に賃貸4戸と自宅の入口が集約されていました。


賃貸併用住宅は約19平米のワンルームが1階に2戸、2階に2戸ある形となっていました。自宅部分は1階・2階の合計床面積が約80平米の3LDKで、家族3人には十分すぎる広さです。建物はまだ築15年程度とそこまで古くはなく、賃貸はワンルームとはいえ駅近で入居者には困らなそうな物件でした。賃貸経営に失敗して売りに出したとは考えにくい物件でしたが、実は…

なぜか賃貸部分が全空室の状態で売りに出ている


駅近で入居者探しに困らないであろうはずの賃貸部分は、なぜか4戸すべてが空室となっていました。売主である大家の自宅部分も転居済みだったので、建物には誰も住んでおらずひっそりとしていました。

不動産会社の人からは「賃貸併用住宅としては建物が利用できないらしいですが、詳細は売主に確認中です。」という点だけは聞いていました。建物がボロボロなのを想像していましたが、現地で見る限り建物の耐久性に問題があって利用できないわけではないようです。

しかも土地として売られてるこの物件の場所は、相場からいくと坪200万円はする土地で、140平米あるので相場通りなら8000万円以上する整形地にも関わらず、売値は約4000万円でした。ただし所有権の土地ではなく借地権です。とはいえ借地権にしても相場よりかなり安い価格です。

相場より大幅に安く、建物に問題がないのに使えない、土地が借地権である…となれば売主から理由を聞くまでもなく、安い理由が想像できました。きっと土地の借り手である売主と、貸し手である地主の間でトラブルがあったのでしょう。これはチャンスです。もし地主とのトラブルを上手く解消できれば割安な価格で土地を購入することができます。

大雪で歩きにくいのをものともせず、ワクワクしながら現地と周辺環境を見て回ってから家に帰りました。妻も閑静な住宅街で大きな家に住む姿を想像して楽しそうでした。

売主の不義理が起こした悲しい失敗


自宅に帰ってから不動産会社から連絡をもらいました。電話に出るまでは賃貸併用住宅をついに取得できるとワクワクしていた私でしたが、土地が割安になっている理由を聞き、妄想していた賃貸併用住宅での生活をあきらめるしかありませんでした。

実は売りに出ていた賃貸併用住宅(土地)は、借地権者、つまり土地の借り手である売主が地主に通常の一戸建てを建てると偽り、無断で建てた賃貸併用の建物だったのです。もちろん地主は大激怒。この借り手(売主)の不義理が賃貸併用住宅を失敗へと追い込むことになってしまったのです。

借地契約では通常、一戸建てより集合住宅を建てるときのほうが承諾料を多く支払う必要があります。さらにその土地の地主は住宅街一帯の土地を持つ大地主で、そもそも集合住宅の建築は認めておらず、一戸建てを建てる場合も土地の譲渡承諾をするときに、新しい所有者を審査して街の雰囲気を守るようにしていたのです。

ところが借り手である売主は家賃収入を得るために4戸の賃貸住宅を併用した建物を地主に無断で建てました。建てた当初は賃貸物件からの家賃収入が月額30万円もあり、住宅ローンの返済を余裕で上回る収益を得て順調でした。

ところが賃貸住宅のワンルームに住む若者が夜遅くに騒いだり、深夜に出入りして静かな住宅街の雰囲気を乱してしまいました。さらに地主も近くに住んでいたためすぐに賃貸併用住宅を無断で建てたことがばれ、借り手である売主は厳しく追及されました。

ところが売主は借地借家法を盾に、のらりくらりと地主の追及を避けながら住み続けました。とはいえ大地主のお膝元です。賃貸住宅の入居者が転居して空室になっても、入居者探しに協力する不動産会社はいなくなり、徐々に賃貸部分は空室となり家賃収入も入らなくなっていきました。

入居者のいない賃貸併用住宅は余分な部屋があるだけの失敗作です。売主は困りながらも賃貸併用住宅を建ててしまった以上、住み続けながら何とかしようともがきましたが、地主だけでなく隣近所からも反発されてしまったため、とうとう諦めて売主は他の街へと引っ越していきました。

そのために売り出し価格を相場より安くするしかなく、賃貸併用住宅として建てられた建物は不必要に大きなため、古家の取り壊し費用も高くなってしまいました。地主を騙して賃貸併用住宅を建てたために周囲の信用をなくして失敗し、売主は大きな損失を抱えることになりました。

借地権の賃貸併用住宅だから失敗しやすいわけではない


今回の失敗例では借地権が原因となってしまいましたが、借地権でもキチンと地主の理解を得て賃貸併用住宅を成功させている事例はたくさんあります。地主との信頼関係を築くことさえできれば、所有権の土地よりも安く購入できる借地権の土地は、大きな利益を生み出す可能性を秘めています。

ただ、人を騙して利益を得ようとしても、最後には手痛いしっぺ返しが来るということは常に覚えておきたい教訓です。たまたま賃貸併用住宅だった失敗例というだけで、賃貸併用住宅の仕組み自体が素晴らしいことは変わりありません。それでも無知のままでは意図せず不義理を働く可能性もあるため、不動産に関する知識を得るために情報収集は欠かさないようにしたいものです。