賃貸併用住宅でもアパート一棟への投資でも同じですが、家賃収入がローン返済を上回り、手元にお金が残るのが健全な不動産投資の状態です。投資家の言葉で言えばキャッシュフローがプラスの状態。毎月手元にお金が残る限り、いつまででも不動産を所有しておくことができるからです。
私が建てた賃貸併用住宅も、毎月の家賃収入からローン返済を引くと月に1.5万円が手元に残ります。賃貸の部屋は自主管理をしているので不動産会社への管理費の支払いがなく、実際に1.5万円が手元に残ります。ただし新築ではなくなってくると家賃が下がり家賃収入は減るため、すぐにローン返済のほうが多くなってしまう状態です。
さらに今は年間で18万円が手元に残りますが、固定資産税・都市計画税が20万円以上必要なので、いまも実体としては手元からお金が出て行っています。いまは新築なので修繕費もかかりませんが、築年数が経てば徐々に修繕費がかかるようになってきます。つまり手元からお金が出て行く状態です。キャッシュフローはマイナスです。
私はこうなることが分かっていましたが、それでも賃貸併用住宅を建てることを決めました。これは金銭的な意味だけではなく別の目的もあっての結論なのですが、金銭的な観点でも得をすると考えて、アパート一棟や区分マンションなどへの投資をせずに賃貸併用住宅を選択しました。
これはキャッシュフローではなく、資産作りを目的とした不動産投資をしようと考えての決断です。今回はこの資産作りの考え方についてご紹介していきたいと思います。これは普通にマンションや一戸建てを自宅として住宅ローンで購入する場合にも必要な考え方です。
家賃収入とキャッシュフローは多いほうが良い
資産作りの不動産投資についてお伝えする前にハッキリさせておきたいのですが、家賃収入やキャッシュフローが多いほうが良いのは不動産投資の大前提です。そうでない状態、つまり手元から毎月お金が出ていくキャッシュフローマイナスの状態では、いつまでも不動産を所有しておくことができないからです。
当然同じ金額の物件を購入するならば利回りが高い物件のほうが確実に良いと言えますから、過去に私が購入してきた投資用物件は利回りが高くキャッシュフローを多く得られる物件でした。
キャッシュフローが多ければ、手元に積み上がっていく現金を使って新たな不動産への投資ができますし、大規模な修繕が必要になったり、急に空室が増えて家賃収入が減ってしまったときにも入居者探しを行う期間を耐えるられるだけの現金を確保しておくことができます。
ただし家賃収入の多さやキャッシュフローの多さだけに注目していると、総資産がどうなっているかという視点が抜け落ちてしまいます。手元にお金が残っていても、あまり総資産が増えていないという状況になっている場合も十分にあり得るのです。
土地以外の不動産は必ず劣化していく
借地権の土地に建つアパートの事例
すでに売却済みですが、私が以前所有していた千葉の一棟アパートがまさにこの総資産の観点で罠にかかっている物件でした。借地権の土地の上に立つ1K8戸の木造アパートで、築6年の時に購入。毎月の家賃収入が45万円あり、ローン返済が毎月15万円だったので手元には30万円が毎月残ります。どんどん増えていく銀行の預金残高を見て、私は大成功だと確信していました。
ところが、築6年で購入したアパートは古くなるに連れて同じ家賃では入居者が入らなくなってきたため、入居者の入れ替わりがあるたびに家賃を下げていくことになりました。家賃収入が減る原因は家賃が下がるためだけではなく、空室期間も伸びており一時は月間45万円あった家賃収入が、空室が多いために15万円になる時期もあるほどでした。
さらに物件を所有していると修繕・修理費用がかかります。しかも所有している千葉の物件は購入当初は自宅の近くにあり自分で細かな修理は対応できたのですが、都内に引っ越すと物件への移動に時間がかかるようになりました。蛍光灯を変えるという簡単なことでも管理会社にお願いするようになり、自分なら数百円で対応できることでも他人に依頼すると数千円となり、出費が重なりじわじわと家賃収入の手残りを減らしていきました。
ローン返済を上回る建物価値の下落
購入当初は毎月30万円が手元に残っていきましたが、わずか数年で毎月20万円程度しか手元にお金が残らなくなっていました。それでも十分なお金が手元に残っていたのですが、ある時ふとノンバンクから送られてくるローン返済の予定表を見ました。
3000万円を金利4.2%で30年間で借り入れて、ローン返済回数はちょうど40回、つまり購入後40カ月経過した時点だったのですが、元金の残りがまだ2820万円もありました。元金の返済は平均で毎月4.5万円ずつしか減っていないのです。
一方で借地権の土地に建っているアパートは年数の経過とともにどんどん資産価値が落ちていきます。特に借地権のアパートの場合、建物の価値でアパートローンなどの融資を受けることになるため、木造物件の法定耐用年数である22年になると資産価値がゼロに等しい評価になってしまいます。
私がアパートを購入した時の建物取得額は2000万円だったので、22年-6年=16年の間に2000万円の建物価値がゼロに近づいていくことになります。つまり毎年125万円、毎月10.5万円ずつ資産価値が失われていくのです。元金返済は毎月4.5万円しか減らないので、借金が減るスピードよりも建物の資産価値が減るスピードのほうが速いことになります。
この後に私は同じエリアの競合物件などを調べたうえでアパートを売却することを決断。売却することを決めてから半年後には売却を完了しました。
不動産の資産価値=純資産、の計算方法
先ほどの一棟アパートでの話には2つのお金の話が出てきました。家賃収入からローン返済を引いたお金の出入り=キャッシュフローの話と、不動産の資産価値とローン残高のバランス=純資産の話の2つです。不動産投資では分かりやすいキャッシュフローの話ばかりが注目されがちですが、純資産の価値も把握して初めて資産作りができる不動産が何なのか分かるようになります。
ある時点での不動産の価値から借金であるローン残高を引いた金額が、年月の変化とともに増えていかないとしたら、その不動産投資は純資産という意味では失敗していることになります。純資産が増えなくてもそれ以上にキャッシュフローが貯まるなら問題ないですが、家賃収入は年数の経過とともに下がり、修繕費もどんどんと増えて手元に残るお金は減っていってしまいます。
キャッシュフローと純資産、2つの観点で考えることで不動産投資の本当の投資効率を知ることができるわけです。マイホームの購入も不動産投資の一種ですから、同じようにキャッシュフローと純資産の推移を確認することで資産作りができる家なのか見分けられるようになります。ではさっそく純資産の計算方法を確認していきましょう。
資産価値から負債を引くだけで純資産は計算できる
純資産の変化について計算するのは簡単です。資産価値から負債を引けば良いだけです。では資産価値はどう計算するのか?分かりやすいのは同じエリアの似た条件の不動産を探し、築10年の価格はどうか、築20年の価格はどうか、と調べていけば資産価値が分かります。
もし条件の似た物件が見つからなければ坪単価や平米単価を調べます。調べたい不動産のあるエリアの坪単価を調べて、マンションならば対象不動産の床面積と坪単価を掛け合せるだけです。一戸建てや一棟アパートなどの場合は建物と土地に分けて計算します。土地はその地域の坪単価を調べて土地面積と掛け合せるだけですし、建物は新築時の坪単価を50万円として築22年でゼロになると計算します。
一方の負債はローンシミュレーションをすればすぐです。最近はウェブサイトやスマホアプリなどでもローンシミュレーションが簡単に計算できるので、ローン残高の減り具合をパソコンやスマホ上ですぐに確認できます。
純資産の計算をするときは、例えば新築で購入してから10年後の純資産を知りたければ、築10年での似た物件の売買価格を見て、10年後のローン残高の金額を引けば残りが純資産です。
不動産の資産価値(純資産)の計算方法例
例えば4000万円で新築一棟アパートを購入して、10年後、20年後、30年後の純資産を計算してみましょう。手元の現金は購入の諸費用だけに出して、アパートの購入費用4000万円はフルローンで借りるとします。借入4000万円、金利2.5%、借入期間30年で借入金利等の条件は変わらないとして計算すると…
10年後 アパート価格3200万円 ローン残高3200万円 純資産0万円
20年後 アパート価格2700万円 ローン残高2100万円 純資産600万円
30年後 アパート価格2300万円 ローン残高800万円 純資産1500万円
最初の10年間では建物の価値下落が早くローンの元金返済のスピードと変わらないため資産作りができません。ただしキャッシュフローの観点では、新築から10年間は修繕費もかからず高い家賃で貸せるため、手元にお金がどんどん貯まっていきます。
次の10年、築10年~築20年の間は建物の価値下落よりもローンの元金返済のスピードのほうが上回るため、アパートの純資産ができてくるようになります。ただし築10年を過ぎると家賃がどんどん下がっていき、住宅設備の入れ替えなどのリフォーム費用がかかり手元に残るお金は少なくなってきます。
さらに次の10年、築20年~築30年の間は建物価値があまり落ちず、ローンの元金部分の返済はどんどん進むため、純資産がかなり大きくなってきます。建物の価値はほとんどなくなりますが、土地で資産形成できている状態です。一方で築20年ともなると空室が目立ったり修繕費が多くかかったりして手元に残るお金はゼロに近くなってきます。
総資産の推移
ここまでに計算してきた不動産の資産価値に、手元に貯まったキャッシュフローを加えることで総資産が分かるようになります。先ほどの純資産の計算例に貯まったキャッシュフローを加えると以下のようになります。
10年後 純資産0万円 家賃収入手残り800万円 総資産 800万円
20年後 純資産600万円 家賃収入手残り250万円 総資産 1650万円
30年後 純資産1500万円 家賃収入手残り0万円 総資産 2550万円
新築から築10年までの間に蓄積できた総資産は800万円、築10年から築20年までの間に蓄積できた総資産は850万円、築20年から築30年までの間に蓄積できた資産は900万円です。何とキャッシュフローがゼロになっている期間にも資産形成をすることができています。これは建物の価値がほとんど下がらない期間に、ローン返済の元金をドンドン返済することで、不動産という形で資産作りができているからです。
もちろん経済状況の変化により不動産の売却価値が変われば総資産は変化しますが、この『家賃収入からローン返済や経費を引いて手元にお金が残らない状態でも資産作りはできる』という方法があることを知ることが大事です。この純資産・総資産の計算によって、資産作りのコツに気がついた私は賃貸併用住宅を建てることにしたのです。
賃貸併用住宅がなぜ資産形成に有利なのかは、また別の記事でお伝えしていこうと思います。