住宅ローン破綻者から学ぶ失敗原因と回避策


マイホームを購入したいという人はたくさんいます。特に30代・40代になると、ずっと賃貸暮らしで良いのか不安に思うとか、子供ができて広くて設備の整った家に住みたいとか、資産形成のためにマイホームを購入したいとか、色々な理由からマイホームの購入検討をする人が増えます。

そのためマイホームの購入検討者向けによく『賃貸vs購入』として住居に関する2つの選択肢の比較が特集されますが、賃貸に比べて購入する場合に一番大変なのがお金の問題です。

購入するためには何千万円もの住宅ローンを借り入れ、さらに頭金として数百万円以上の現金を支払う必要があります。まれに頭金ゼロ円で購入できる家もありますが、頭金を出さなかった分だけ借金(住宅ローン)が増えるだけです。

こうしてマイホーム購入と引き換えに背負った数千万円の借金は、35年間という長期間ずっと返済し続けていくことになります。もし金利が上がれば毎月返済額は増えますし、もし失業してしまったり収入が減ってしまっても住宅ローンの返済額は変わりません。

実は私は過去に2度、住宅ローン破綻した人から家を購入したことがあります。両方とも一戸建てで、不動産投資用の物件として購入しました。つまり賃貸物件として家賃収入を得るための購入です。かなり割安に購入することができたのですが、購入する時には何とも言えない気持ちになりました。

2名の破綻した人のうち、今回は任意売却で住宅ローンを処理したTさんの話と、そこから住宅ローン破綻しないための回避策を共有したいと思います。



新築で購入して14年目に破綻したTさんの話


キレイなのに割安な一戸建てを発見


私が以前住んでいた地域で投資用の小さな不動産を探していたところ、築14年とまた新しい一戸建てが相場より3割ほど安く売りに出されているのを見つけました。都心から少し離れたやや郊外に位置する立地で、地価が安いのを考慮しても十分に魅力的な一戸建てでした。

利用者のあまり多くない沿線の駅から徒歩15分ですが、敷地内に1台分の駐車場があり、4DKと部屋数も多く、何より築14年で写真で見る限りとてもキレイな建物です。すぐに気に入った私は、不動産会社を通して内覧の約束を取り付けました。

後日不動産会社の担当者と一緒に現地へ物件を見に行ってみると、実際の建物も写真で見通りのキレイでした。そのまま売主のTさんに家の内部を見せてもらうと、多少室内は汚れていたものの、設備は新しいので壁紙を張り替えて掃除をすればピカピカになりそうです。特に問題もないため、私はその一戸建てを購入する事にしました。

銀行で聞いたローン破綻の理由


現地確認をした後は郵送で契約書のやり取りを行い、2週間後に契約金の残金決済のため銀行に関係者で集まりました。売主のTさんは銀行員と不動産会社の担当者に挟まれ、背を丸め小さくなって座っていました。

専門家の人たちが事務処理を行う間、署名と捺印くらいしかやることのない売主のTさんは、同じく手の空いている買主の私に自宅を手放す事になった理由をゆっくりと話しながら教えてくれました。

Tさんは52歳で、若い奥さんと産まれたばかりの赤ちゃんの家族がいました。この若い奥さんとは再婚で、前の奥さんにはTさんから離婚を切り出したため養育費を渡しているとのことでした。つまり普通のファミリー世帯の収支に比べて養育費という追加出費があり、元々家計が苦しかったようです。

そんな中、リーマンンショック後の景気悪化の影響で徐々に業績が傾いていった勤め先の企業が倒産。アベノミクスが始まったばかりの頃でしたが失業してしまいました。再婚した奥さんは出産直後で働くこともできず、あっという間に家計が破綻し住宅ローンの返済ができなくなったそうです。

銀行に相談するものの自宅を手放す以外に方法はないと言われ、競売よりは多少でも高く売れるだろうという事で、任意売却を選択して売却活動をしていたところ、私が売物件となっていたTさん宅の一戸建てを見つけたのでした。

住宅ローン破綻した売主から感謝される


泣く泣く自宅を売却することになったTさんですが、売却金によって住宅ローンを大幅に減らすことができ、毎月の返済額を大きく減らすことができたため、私はTさんからとても感謝されました。決済を終えた後の鍵の引き渡しの際には笑顔で握手をしたほどです。

Tさんは自宅を売却してもローン残債全てを返済することができず、今後は1万5千円ずつ住宅ローンの残りを返済していくことになりました。ただ毎月のローン返済額は大きく減り、引っ越し先の賃貸住宅の家賃支払いも必要になりますが、月々の住居費の負担は数万円は軽くなるそうです。

経済的にも精神的にも身軽になり、Tさんは人生を仕切り直して新しい家族と再び歩み始めることができました。そんな姿を見て私も多少は気分が晴れましたが、住宅ローンの滞納から破綻までしてしまったTさんの委縮した姿を見て、とても複雑な気分でした。同時に自分が住宅ローンやアパートローンで破綻しないための方法を考え直すきっかけとなりました。

Tさんが住宅ローン破綻を回避できなかった理由とそこからの学び


失業後に再就職するまでの間に破綻


私とTさんが一戸建ての売買契約をした直後、Tさんは再就職をしていました。失業する前よりも年収は減ったそうですが、頑張れば住宅ローンも返済できるぐらいの収入はあるそうです。

ただ失業中に住宅ローン返済を続けるだけの預貯金がなく、2回連続で滞納してしまったために銀行から競売するか任意売却するかを迫られることになり、泣く泣く自宅を売却する事になってしまったのです。

離婚と再婚による出費の増加や失業による無収入になったことという、住宅ローン破綻の要因となった2つの事実はありますが、破綻した直接的な原因は預貯金=現金が無かったことです。Tさんが失業してから再就職するまでの半年間、住宅ローンの返済ができるだけの現金があれば自宅を売らずに住み続けることができたのです。

手元に現金を残しておくのが住宅ローン破綻回避の秘訣


住宅ローンを使ってマイホームを購入した後、失業して無収入になる可能性は誰にでもあります。そこから多くの人は再就職をしたり商売を始めたりして何とか収入源を確保することができます。そうすれば住宅ローン破綻することもなく、マイホームに住み続けることができる訳です。

となると無収入の期間にも住宅ローンの返済と生活ができるだけの現金が手元にある必要があります。できれば年収と同じ金額の預貯金を確保することで、新しい収入源を確保するまで一年間の余裕は持てるようにしておくべきです。

よく住宅ローンで支払う利息がもったいないと言って、毎月のローン返済額を支払いできるギリギリの額まで増やしたり、手元の預貯金をほとんど残さずに繰り上げ返済する人がいます。もしこうした人たちが失業して無収入になってしまった場合、再就職するまでの期間にローン返済ができず破綻してしまうことになります。わずかな支払い利息のために、住宅ローン破綻のリスクを増やしてしまっているのです。

賃貸併用住宅でも手元に現金は必要


賃貸併用住宅の場合は家賃収入というプラスアルファの収入源があるため、住宅ローン破綻する可能性がぐっと低くなります。サラリーマン世帯の場合、給料+家賃収入というダブルインカムになるため、失業と入居者の退去が同時に発生しない限りは無収入になることがありません。

ただ賃貸併用住宅を建てた場合、普通の一戸建てやマンションを購入するより住宅ローンの借入金額が大きくなり、住宅ローンの返済額が多くなります。無収入にはならなくても返済に困る可能性があるのです。また賃貸経営をしているので、給湯器など設備故障で支出があったり、空室になり家賃収入がなくなるリスクもあります。

普通のマイホーム取得者よりは住宅ローン破綻のリスクは低いですが、収支が苦しくなる可能性はあるので常に手元資金は確保しておくべきです。万が一、失業+空室+修繕費という三重苦に陥っても大丈夫なように、年収以上の金額の現金は残しておき、盤石な体制を維持しておきたいものです。