私は投資用=賃貸用として住宅ローン破綻者から一戸建てを購入することを2回経験しています。一件は失業によって任意売却されたていたところを購入した物件で、もう一件は競売により取得した物件です。
任意売却の場合は住宅ローン破綻者の売主が意識的に家を売却し、買手である新たな所有者への引き渡しも行うため、購入する側にとっては普通の不動産売買と違いはありません。
ところが競売の場合は有無を言わさず家が売りに出され、所有者(破綻者)は非協力的な場合がほとんどなので、競売によって取得した家がボロボロの状態であったり、居座り続ける元所有者の立ち退きさせる必要があったりと、手間がかかる物件が多いです。
今回はそんな競売で一戸建てを競り落とした時の経験から、住宅ローン破綻して競売になった元所有者の話と、そこから得られる教訓を共有していきたいと思います。
わずか200万円の一戸建て
家賃収入を得ることを目的に投資用の一戸建てを探していたところ、首都圏のベッドタウンでとても安い競売物件を見つけました。東京メトロの人気沿線に直結する沿線の駅から徒歩10分、坂の中腹に立地する一戸建てがわずか200万円の査定額で競売物件として登録されていました。
かなり便利な立地にも関わらず、200万円という低い査定額になっているのは、築年数が40年を超えたボロボロの家であることと、敷地全体が「ジャングル」状態であったためでした。
競売物件で建物の中を見るにはチャイムを鳴らして住人に個別交渉をする必要がありますが、この200万円の一戸建ては何年間も人が住んでおらず、おまけに敷地の外から建物を見ようとしても、木や草が生い茂っているため全く状況が把握できませんでした。
無人とはいえ勝手に敷地に入る訳にもいかないので、建物の状態が全く分からない状態で競売に参加するか決めなければならない状況でした。もし落札しても建物は使えないほど痛んでいる可能性があります。柱がダメになっていれば賃貸物件として貸し出すことはできず、立て直しをするしかなくなってしまいます。
私は競売に入札するか悩みましたが、大失敗したとしても200万円を諦めれば良いだけだと思い直して競売に参加しました。入札は10件ほどありましたが、建物の状況が分からないような案件に高額入札する人もいなかったため、200万円+αの金額で私が落札することになりました。
書類と残置物から推測できる元所有者の過去
私が落札した競売物件は無人のまま何年間も放置されていた家ですが、空き家になる前には元所有者が住んでいた家です。元所有者と話すこともできないため破綻した理由を直接聞くことはできないのですが、競売の書類や家に残された物品、近隣の方々の話から、元所有者の過去を知ることができます。
競売に入札する際の参考書類として、『現況調査報告書』という書類があります。この中に関係者の陳述という項目があり、裁判所が調査した元所有者などへの聞き取り内容などが書かれています。
どんな人物が競売対象物件を所有し、いま物件をどう利用しているのか。残置物の扱いはどうなのか。などといった内容が短文で簡潔に記載されています。ただし情報はほとんど得られないため、この内容を元に近隣住民に聞き込みをすると状況が分かってきます。
聞き込みにより私が落札した一戸建てについて以下のような状況が分かってきました。
- 元所有者は小規模な会社を経営し、一時期は羽振りもよく、隣り合う一戸建て2軒を所有していた
- ところがITバブル崩壊とともに元所有者の会社の経営が傾き、2003年頃に親族を頼って引っ越した
- 一戸建て2軒のうち1軒は賃貸に出され、もう1軒は私有物置き場として空き家のまま放置
- 競売対象となったのが私有物置き場として放置された家
- 引っ越し後も住宅ローンを払い続けていたが、いよいよローン返済に行き詰まり2011年に滞納
- その結果2012年に競売物件として裁判所に競売開始決定をされた
- 10年近く無人であったため木々が生い茂りジャングル状態になった
こうした元所有者の過去をしった上で、落札した一戸建ての内部に残る私有物の片づけをしていくと、さらに住んでいた家族の過去が明らかになっていきます。
- スキー板やストック、さらに家族でスキーに出かけた写真が複数あり、スキー好きの家族だった
- 古い型のパソコンや通信機器の在庫らしきものが複数あり、元所有者はIT機器販売の会社を運営していた
- 銀行やノンバンクからのローン返済の滞納に対する請求書類などがあり、空き家だったが時々は様子を見に来ていた様子
- 幼児用のおもちゃや補助輪付き自転車があり親子で仲良く暮らしていた
幸せに暮らしていた家族が会社の経営状態が悪化したため、逃げるように引っ越していった様子が目に浮かびます。残置物の片づけをしながら本当に切ない気持ちになりました。
住宅ローン破綻の要因と対策の推測
今回の競売物件の元所有者が破綻したのは、経営していた会社の収益悪化が主な要因です。ただ、もし購入する一戸建てについて、もっと上手な選択をしていれば住宅ローン破綻は回避できていたと私は考えています。
【失敗1】地価の安い地域の中古一戸建てを購入した
過去の書類から推測すると、競売となった一戸建てを約1000万円で元所有者は購入しています。ちなみに地価は200万円程度のため、建物は800万円で購入していることになります。
ところが建物はどんどん劣化し価値が下がっていくため、家計が苦しくなり家をいざ売ろうとしても大幅に値下がりし、ローン残高を下回る金額でしか売却できなかったのだと思われます。
【失敗2】坂の中腹で道路と敷地に約2メートルの高低差があり高齢者から敬遠される
最寄駅から家に行こうとすると、途中で激しい起伏の道や階段を通る必要があります。しかも家が建つ場所はかなり急な坂の中腹にあるため、家に到着する直前で息を切らしながら坂を上る必要があります。最寄駅から徒歩10分の距離ですが体力の消耗が激しいです。
また家の敷地は目の前の道路から約2メートル高い位置にあり、道路から階段を上って敷地に入るため駐車場を作ることもできません。それでも安いなら良いのでは?と思うかもしれませんが、家を売却する時に大きな問題があります。
いま日本は高齢化社会のため、人口の多くを占める高齢者が検討してくれない不動産は値段を下げて売るしかありません。しかも日本の富の大部分は高齢者が保有しています。日本全体の金融資産のうち、60歳以上の世帯が約60%を保有しているという統計があり、不動産なども含めると資産のほとんどは60歳以上の高齢者が独占していることになります。
つまりお金持ちかつ多数派である高齢者層が買いたいと思う、駅近で近くに病院があり建物の管理をしなくて良いマンションの価格が高騰しているのは時代の流れということです。逆に不便な立地で、建物の維持管理が大変な築古の一戸建てなどは敬遠され、売却価格は大きく下落していくことになります。
【失敗3】金銭に余裕があった時に住宅ローンの繰り上げ返済をしなかった
元所有者は事業を行っていたので、会社員と比べて収入が安定しないというリスクがあります。。一方で好調な時は多額の収入を得ることができていたようですが、この好調な時に住宅ローンの繰り上げ返済をすべきでした。
残置物のアルバムなどを見る限り、収入が多かった頃は家族で様々な場所へと旅行に出かけていたようです。家には健康器具やおもちゃなどのガラクタが多数放置されており、かなりの散財をしていた様子が想像できます。
収入が安定しない人は住宅ローンなどの借金は早期に返済すべきです。もしくは賃貸併用住宅を始めとした賃貸住宅からの家賃収入など、安定した収入源の確保に資金を使うべきですが、元所有者は旅行や雑多な物品に貴重なお金を使ってしまっていました。
不動産投資やローンの繰り上げ返済をしていれば、ITバブル崩壊により会社の経営が苦しくなっても住宅ローン破綻をすることはなかったと思います。
安定した収入源の確保と資産形成をすることの大切さ
私は2006年から不動産投資を行い家賃収入を得ています。小規模ですが確実に収益を得ることができており、会社員として給料をもらう以外の収入源があることで、精神的な余裕を持って働くことができています。
さらに賃貸併用住宅を建てたことで、生活に便利な都心の好立地に住むことができると同時に、賃借人が見つかりやすい安定した賃貸住宅を所有することができるようになりました。安定した賃貸住宅による家賃収入で住宅ローンを返済し、どんどん減っていく住宅ローンは不動産という資産形成をしてくれていることになります。
万が一、私が会社員としての収入がなくなったとしても、賃貸併用住宅には住み続けることができますし、賃貸住宅から得られる家賃収入で最低限の生活費は確保することができます。もし多額の現金が必要になれば、所有する不動産の一部を売却することで現金を作り出すこともできるのです。
もしあなたが幸いにも資産運用や投資に回すことができる現金があるならば、不動産投資による安定収入を得ることで経済的にも精神的にも余裕を持つことができますし、自宅購入用の頭金があるならば、賃貸併用住宅による家賃収入で住宅ローンを返済し、価値ある不動産という形で資産形成を行うことができます。
経済的に上手くいっている時は、安定収入の確保や資産形成のチャンスです。自分の資産状況について、じっくりと考えてみることをオススメします。