マイホームを普通に買うのに比べ、家賃収入があるために住宅ローン破綻しにくいのが賃貸併用住宅の強みですが、もちろん失敗の可能性もあります。特にマイホーム購入として一戸建てを建てるよりも規模の大きな建物を建てるために、危ない条件が重なってしまうと最悪の場合は破綻までいってしまうことがあります。
賃貸併用住宅を建てたいと考えているならば必ず知っておきたい賃貸併用住宅における落とし穴について今回は確認していこうと思います。この落とし穴は不動産投資全般にも当てはまることですので、賃貸併用住宅ではない収益物件を検討している場合でもぜひ確認してください。
手持ち資金を頭金として使い切ってしまう
賃貸経営はリスクと引き換えに収益を得る商売です。不動産という形のあるものを持つことで、自然災害や不良入居者、建物の劣化や設備の故障といった損失を追うリスクを抱える代わりに、時間が経過することで定期的に家賃収入を得ることができます。
こうしたリスクに耐えることができていれば、時間が経過すればするほど収益が増えるため、毎月の収支さえ回っていれば破綻することはありません。賃貸併用住宅だけではなくマイホームでも同じで、毎月支払える住居費よりも住宅ローンの返済額が上回らなければ住宅ローン破綻することはありません。
つまり逆の状態である、リスクを抱えることで発生した一時的な損失に対し、手持ち資金で対応ができなければ簡単に破綻してしまうことになります。そうなりやすいのが賃貸併用住宅を建てた直後です。
住宅ローンの借入金額を減らして支払い利息を節約しようと目一杯の頭金を使ってしまうと、手持ち資金がギリギリの状態になってしまいます。この状態でもし賃貸住宅部分の入居者が決まらずに住宅ローン返済が始まってしまうと、手元からお金が出ていく一方ですから手元に現金がない場合はローン返済ができず、いきなり住宅ローン破綻を迎えるという悲劇が起こってしまいます。
対処は簡単で、手持ち資金はできる限り温存して不測の事態に備えることです。サラリーマンが土地から探して賃貸併用住宅を建てるの場合は賃貸住宅が2~3戸程度が多いでしょうから、現金が300万円程度あれば一年間は耐えられます。ただし元々所有していた土地に大きな賃貸併用住宅を建てる場合は、500~1000万円程度の対リスク用資金を手元に残しておきましょう。
リスクを吸収し、長い時間をかければそれだけ家賃収入が増えていきますから、賃貸併用住宅を建てたばかりの一番現金が少ない時期を乗り越えられるかが重要になります。
高い住宅ローン金利での借り入れ
賃貸併用住宅の魅力は賃貸経営の実績がない素人でも、とても低い金利で融資を受けて収益物件を建てられることです。もし金利が低くなければ単なる利回りの低い収益物件になり下がってしまいます。住宅ローンで借入金利が低いからこそ、アパート一棟などと比べて多少収益性が低くても、毎月の収支はアパートよりよくなりますし、資産形成のスピードも早くできるのです。
ところが企画した賃貸併用の計画に十分な住宅ローンの借入金額が伸びず、希望する借入額に足りるのが金利の高い住宅ローンだけになってしまう場合があります。賃貸併用住宅はマイホームという側面もありますから、住宅ローンの金利が高くても月々の収支が回って住みたいと思うならば多少無理をしてでも賃貸併用住宅を建てることができてしまいます。
私も賃貸併用住宅を建てるまでに何度か高い金利の住宅ローンしか選択肢がない状況になりましたが、「高い金利でローンを借りてでも毎月の収支は改善するのか?」「毎月のローン返済に占める支払い利息の割合が増えるが資産形成に影響はないのか?」を十分に考えて、結局は住宅ローン金利が2%を下回らないと賃貸併用住宅を建てる意味がないと判断しました。
いまや住宅ローンの金利の多くが1%を切るような状況で、2%を超える住宅ローン金利で借り入れをするぐらいなら、賃貸併用住宅よりも新築アパートを建てたほうが収益性が良いです。賃貸併用住宅は床面積の50%以上を自宅部分にする必要があり、収益性を高めるのに制約が多いですが、普通のアパートならば最大限まで収益性を追求した建築プランを作ることができます。
また住宅ローン返済の元金返済分が資産形成に大きく影響することを考えると、スルガ銀行などの借入可能額が大きいものの3.5%という金利での借り入れと、最近の借入金利平均である1%とでは、毎月の返済額の差に加えて元金返済の差があるために見た目以上の資産形成の差が生まれてしまいます。
借入金額5000万円 借入期間35年 元利均等返済 金利1%の場合→1回目ローン返済額141,142円 元金分99,476円 利息分41,666円
借入金額5000万円 借入期間35年 元利均等返済 金利3.5%の場合→1回目ローン返済額206,645円 元金分60,812円 利息分145,833円
金利1%と金利3.5%の収益の差毎月のローン返済額の差 約65,000円
元金返済分の差 約40,000円
→合計 105,000円
この収益性の差は返済年月が経てば元金返済分の差が少しずつ減るのですが、そもそも毎月のローン返済額が65,000円もの差ができてしまっていますから、毎月の収支は圧倒的な差があります。この高い金利でやや厳しいローン返済を続けている状態で、予定していた家賃収入がなくなってしまうと…住宅ローン返済に行き詰まる様子が目に浮かびます。
低い金利での住宅ローン借入があるからこそ、賃貸併用住宅の経済的メリットがあることを忘れないように案件を進めましょう。
実家の土地に賃貸併用住宅を建てる
先祖代々の土地を有効活用するために賃貸併用住宅を建てる…ハウスメーカーの営業マンが有力な顧客として認識しているのがこうした「土地持ち世帯」です。特に広い敷地を持て余しており、固定資産税の支払いを負担と感じている場合、賃貸併用住宅を建てるという方法はとても魅力的な方法に見えます。
ところが日本の人口はどんどん減少するような時代に、どんな土地でも賃貸併用住宅を建てれば家賃収入のメリットを享受できるわけではありません。賃貸経営が長い期間も成り立つという確信が持てる立地でなければ賃貸併用住宅を建ててはいけません。
ところがハウスメーカーは賃貸経営での収益性など関係なく、建物を建てれば大きな利益になりますから、家賃保証やサブリースといった制度を上手く利用して、本当は賃貸併用住宅のような収益性のある建物を建ててはいけない土地でも「我が社が家賃保証をしますから建てましょう」といって建築プランを提案してきます。
ハウスメーカーは小規模な建物でも利益は1000万円以上、土地所有者への提案ならば多くの場合で数千万円の利益は出ますから、家賃保証をすることでハウスメーカーが毎月数万円の損失を負うことは『必要経費』の範囲内です。
さらにほぼ全ての家賃保証やサブリース契約には、5年など一定期間での保証家賃見直しが行われますし、ハウスメーカーの都合が悪くなれば契約を解除できる条項もキッチリと記載されています。家賃保証を受けられるからといって、賃貸併用住宅を建てても良い立地とは限らないのです。
しかも実家の先祖代々の土地のような心理的に売却して手放しづらい場合、賃貸需要や家賃収入額などの見立てを甘くしがちです。15年後に人口が30%も減ってしまうような地域だと人口推計のデータが公表されていても、多くの人は調べることもないままですし、知ったとしても理由をつけてウチは大丈夫だと考えてしまいがちです。
土地から探す場合は落ち着いた視点でじっくりと収益性の高い立地を見極めることができますが、実家の敷地といった歴史や愛着のある土地に賃貸併用住宅を建てる場合は、できる限り冷静な視点で賃貸需要の想定や家賃収入額の見積もりを行わないと、規模が大きくなりがちなだけにあっという間に破綻します。
人口減少時代という事を考えると、土地の7割ほどは賃貸併用住宅や収益物件を建てるのに不向きな立地です。都市部であっても駅から遠い物件であれば借り手の減少とともにアッと言う間に需要が減っていきます。多くのプロのアドバイスをもらいながら、じっくりと決断をするようにしましょう。
十分な保険に加入しない
賃貸経営はリスクを追うことと引き換えに収益を得ると書きましたが、手持ち現金を十分に用意していてもカバーできないリスクも存在します。火災で建物が全焼してしまい建て直しが必要だとか、建物の不具合によって人的事故で数千万円の賠償金を請求されるといった、個人ではとても支払うことができないリスクです。
こうした確率は低いけれどももし直面してしまったら多額の損失が発生する事柄については、火災保険や地震保険、保険のオプションを使ってリスクへの対処が必須です。保険料も安くはないですから、節約しようと下手にケチってしまって自分が背負いきれない損失を補填できない状態にあることがあります。
保険が適用されるような最悪の状態の場合、保険に加入していなければ後悔しても遅いですから、自分の手持ち資金でカバーできないリスクは必ず保険を掛けて損失に備えるようにしてください。
孤独死などのピンチに対して専門業者に丸投げするしか解決方法を知らないならば、孤独死対応保険などもありますから、賃貸経営に関する主なリスクと保険は調べておくことでリスクに備えることができます。
ただし自分の手持ち資金で十分にカバーできる場合は保険料の無駄使いです。建物の構造に関わるリスクや、損害賠償に対するリスク以外の小さなリスクは、手持ち資金がある程度あれば対処できる損失です。保険のオプションなどで小さなリスクについてカバーする内容があれば外しておきましょう。
大事なのは、自分が対処しきれない金額の損失を負う可能性について、十分な保険に加入しておくことです。
建築プランを考えてから当てはまる土地を探す
賃貸併用住宅で一番間違いを犯しやすいのが、おおまかな建築プランを先に描いて、計画上の建物が建てられる土地を探すことです。例えば賃貸住宅は25平米を3戸作り、自宅部分は75平米以上でバルコニーが南側の建物、といった条件です。
例として出した建築プランは条件としては多くないですが、現実的には自己資金と住宅ローンの借り入れ限度額により立地を大幅に制限され、賃貸経営の観点では厳しい土地に建物を建てることになってしまいます。
賃貸併用住宅が経済的なメリットを受ける重要ポイントは、長期間に渡って安定した家賃収入を得られることですから、建物よりも優先するあまり、賃貸需要の少ない立地で土地を購入してしまい、想定していた家賃収入を得られなくなれば一気に家計が苦しくなり、住宅ローン破綻へ片足を突っ込んだ状態になってしまいます。
さらに建築プランを先に決めてしまうと、良い土地が見つかったとしても賃貸需要がどうかを調べる前に賃貸住宅のおおまかな間取りを決めてしまっているために、柔軟に考えることができずに長期的な収益を得られなくなってしまう可能性が高いです。
賃貸併用住宅を建てる場合は必ず土地を先に探してから、その土地で収益性や住み心地が最もよくなるような建築プランを作るようにしてください。立地や土地は変更できないものですが、建築プランは工夫する余地があります。
土地を優先することで建物と違い劣化しない分、資産形成も有利に行うことができますから、建築プランを考えたとしても、そのプランが当てはまるような土地を探すことはしないように気を付けてください。