ハウスメーカーに設計もしてもらえば設計事務所への依頼は不要なのか


賃貸併用住宅を建てたり建築プランを作ってもらおうと考えた時に、最初に迷うのが相談をする相手です。ハウスメーカーなのか、工務店なのか、設計事務所なのか、3種類の会社のうちどこに相談に行けばよいのか迷う人が多いと思います。私も実際に迷ったため、土地探しと並行して何が正解かを深く調べて回りました。

最初は総建築費用を最も安くできるにはどうしたらよいか、という基準を元にハウスメーカー、工務店、設計事務所それぞれに相談に行きました。そこで分かったのが、総建築費用に対する設計料の違いです。

3種の会社それぞれの総建築費用に対する設計料のパーセンテージは、ハウスメーカーや工務店で建築士が社内にいる場合が3~5%に対し、設計事務所に依頼する場合が10~15%という違いでした。

この設計料の違いを聞いた時に「設計事務所だけは選択肢としてないな」と考えたのですが、最終的に私は設計事務所を相談先として選び、設計事務所と不動産会社による相見積もりによって工務店を決めました。

私が設計事務所に対する考えをなぜ変えたのか、そしてその選択が正解だったのかについてお伝えしていこうと思います。



設計料がパーセンテージという数字のトリック


設計事務所へ賃貸併用住宅の建築を依頼した場合と、設計士が在籍するハウスメーカーや工務店に建築を依頼した場合とで、設計料について本当に大きな差が生まれるのか、具体的な数字を出しながら考えてみましょう。

ハウスメーカーと設計事務所の立場の違い


賃貸併用住宅の場合、自宅と賃貸住宅が合わさっているため建物の規模が大きくなりやすいですから、小規模でも3000万円くらいの建築費が必要です。今回はこの3000万円を基準にして考えてみます。

ハウスメーカーや工務店の設計料3%とすれば3000万円×3%=90万円が必要な設計金額となります。ただしこの90万円は総建築費用の3000万円に含まれているのが普通です。これに対して設計事務所の設計料は建築費用の10%~なので3000万円×10%=300万円と計算でき、総額3300万円が必要に見えますが、実はこの計算は前提が間違っているのです。

特定のハウスメーカーを相談先として決めてしまった場合、建築費用はハウスメーカーの言いなりになるしかありません。もし建築費用を安くしようとハウスメーカーに対して交渉をしても、建材のグレードを下げられたり、住宅設備の一部を省かれたりするだけで、建築費用が安くなったように見せられるだけの場合がほとんどです。

素人である私たちでは建築内容が変わったことを見抜けないため、建物のグレードを下げられても分からないのです。ところが設計事務所に依頼した場合は話が変わってきます。

設計事務所がハウスメーカーに見積もりを取り、価格交渉をした場合には建物のグレードを下げるような見せかけの値引きは建築士相手には通じません。複数のハウスメーカーや工務店に相見積もりを取れば、単なる価格比較しかできない素人と違い、建物の仕様と建築費のバランスがもっとも良い会社を選ぶことができます。

つまり設計事務所に依頼した場合、建物のグレードを維持したまま建築費用自体を下げられる可能性が高いため、設計料が高くても結局は得をすることができるのです。

ハウスメーカーの粗利益率から知る建築費用の値引き幅


ハウスメーカーの粗利益率は30%前後と言われています。大手の有名な会社ほど高く粗利益率が40%になる一方で、中小工務店やローコストハウスメーカーで20%程度になることもあります。平均しておおよそ30%ということですね。

ここで総建築費用が3000万円ならば、粗利益は3000万円×30%=900万円ということになります。この900万円から従業員の給料や事務所の家賃などが支払われるので、この900万円から利益として残るのはずっと少ないですが、900万円は価格交渉ができる値引き余地となります。逆に考えれば建築原価は2100万円ということになります。

同じ建築原価で中小工務店やローコストハウスメーカーで建築できた場合、粗利益率20%とすれば2100万円÷(100%-20%)=2625万円となります。もし設計事務所が監督することにより、同じ建築内容でローコストハウスメーカーで建物を完成できれば、3000万円-2625万円=375万円の値引きに成功することができます。これに設計事務所の設計料2625万円×10%=263万円を支払ったとしても、375万円-263万円=112万円の総建築費の節約に成功できるわけです。

補足:中小工務店やローコストハウスメーカーは本当に大丈夫なのか


ローコストハウスメーカーの建てるローコスト住宅は、大手ハウスメーカーに比べて金額は数百万円も安くなっているために、建物の仕様が良くないのではないかと不安になってしまいます。ただ、ローコスト住宅が安くできる理由を知ればこの不安は解消できます。

同じ建築原価でも、企業努力によって素早く建物を建て受注件数を増やことができれば、一案件当たりの粗利益が少なくても案件数は増えますから、企業が得られる総利益は十分に確保できるようになります。建築費用が安いために広告で集客をしなくてもよいため、経費を減らせるという利点もあります。

先ほど例で言えば、他のハウスメーカーが2100万円の建築原価がかかる案件で900万円の利益を得る一方で、同じ期間でローコスト住宅を2100万円の建築原価がかかる案件で2棟建てれば、525万円×2件=1050万円の利益を得ることができます。ローコスト住宅は工期を短くしたり、受注案件を増やすことで、建築費用を安く提供しながらも企業として利益を確保できているのです。

そのため建築費用が安いからと言って建物が安普請なわけではなく、建物を建てる仕組みを上手に回すことで利益を確保するので、建物の質は平均的なハウスメーカーで建てたときとは変わらないということができます。

設計事務所に設計を依頼するべき重大な理由

ハウスメーカー所属の建築士では良い図面が作れない


設計料を含めた建築費用を設計事務所ならば安くできる可能性があることを紹介しましたが、賃貸併用住宅の場合は設計事務所を相談相手にするべきもっと大事な理由があります。

賃貸併用住宅を建てることで経済的に大きなメリットを得るためには、家賃収入が安定して入ってくることが前提となります。つまり賃貸経営が安定して行えることが重要になってくるのです。賃貸経営の成功には立地(土地)がとても重要ですが、同時に間取り(建築プラン)もとても重要だというのはお分かりでしょう。

ある土地に対して、どんな建物を建てて間取りをどうすれば家賃収入を最大限まで引き出せるのか、作成する建物や間取りは周囲の賃貸住宅と比べて魅力があるのか、企画している間取りはそもそも建物を建てる地域で需要があるのか、建築費用を抑えながら魅力のある賃貸住宅にするにはどう設計すれば良いか…こうしたことを考えられる建築士の協力が必要不可欠なのです。

ところがハウスメーカーに設計を依頼した場合、既存の賃貸併用住宅を当てはめようとするために、土地の建築可能面積より小さな建物に収まってしまったり、アパートの設計業務に強いわけではないため、賃貸経営において競争力のある間取りを作成できる可能性はとても低いです。

逆に設計事務所に建築を依頼する場合、実績から賃貸経営に強い設計ができる建築士や事務所を選ぶことができます。アパートの設計実績が多くある事務所はたくさんありますから、こうした賃貸経営に理解のある設計事務所を選ぶことで、賃貸併用住宅を建てたあとの家賃収入を多く・確実に得られるようになります。

自宅部分である一般的な住宅についてはどんな設計士でもある程度の知識はありますから大きな差は出ませんが、賃貸住宅は建物だけではなく賃貸市場や間取りと家賃の関係性、家賃収入を最大化する空間の有効活用など、ノウハウの差が大きく出てしまいます。

土地探しと並行して設計事務所に問い合わせを


悪い例として、ハウスメーカーの賃貸併用住宅で家賃収入の試算が最大になるプランがぴったり土地に建てられる、と提案された設計図通りに建物を建てたものの、その立地ではワンルームばかりの賃貸住宅の需要がなかった、などという深刻な失敗も数多く存在します。

家賃収入という賃貸併用住宅において最も重要な要素を、最大限まで引き出してくれる設計をしてくれるパートナー選びこそ、最も重視すべき項目です。本質がどこにあるかを考えて建築の相談先をどこにするのか選んだ結果、賃貸併用住宅ならば設計事務所がベストだと私は結論付けました。

おかげで通常の部屋よりも高い家賃を得られる賃貸住宅の間取りを作成してもらい、数多くの申込書から入居者を選ぶことができました。近年は賃貸住宅の空室率が上昇していますから、入居者を選べるような大家さんはほとんどいませんから、本当にありがたいことです。

土地探しのために最初に不動産会社への相談もすると思いますが、建物の相談相手としては設計事務所をオススメします。ただしどの設計事務所でも良いわけではなく、賃貸併用住宅や賃貸住宅の設計実績がある事務所がお勧めです。たくさん見つかりますからぜひ探して問い合わせをしてみてください。きっとよいアドバイスを得ることができると思います。