南向きの土地が一番良い…は間違いです


賃貸併用住宅の企画は、土地探しと同時に建物の建築プランを考える必要があります。どんなに駅近くの良い立地でも、賃貸併用住宅を作れるだけの床面積を確保できない場合もあるし、住環境の良い住宅街では賃貸需要が少ない割に競合のアパートが多過ぎて賃貸経営が成り立たない場合もあります。

さらに土地は一つひとつで条件が違いますから、建築可能な建物も土地によって全て変わってきます。たとえ隣同士の土地だとしても、建築プランは土地の形や周囲との建物関係など、全て考え直さなければなりません。

ただ、道路の向きについては賃貸併用住宅にとって明らかに有利な土地というものがあります。人気の土地として南向き(=南道路)が有名ですが、賃貸併用住宅を建てる場合はどうなのか、土地の道路の向きと建築プランをセットにして検討をしてみたいと思います。


土地の価値は接する道路の向きで大きく変わる


道路は土地の利用価値に直結する


土地の価値というのは立地によって大きく変わることはご存知だと思いますが、同じ立地の中では接する道路によって決まります。例えば渋谷周辺で同じ広さ同じ形の土地でも、幹線道路に接している土地と、道路に出るには細い通路を通るしかない土地では、10倍以上の価格差があることは当たり前です。

この価格の差=価値の差の大部分は建てられる建物の違いです。幹線道路沿いの土地では高層ビルを建てることができますが、狭い袋小路の突き当たりにある土地では建物の建築が許可されていませんから、テントを張るか畑にするくらいしか利用価値がありません。

このように土地は「立地」と「接する道路(=接道・道路付け)」の2つの要素によってほとんどの価値が決まってきます。

接道の違いと種類


幹線道路と袋小路では価値が大きく違うことは分かりやすいですが、接道の違いというのは本当に多様です。土地の価値の違いが分かりにくいのは、この接道の種類があまりに多くあることが原因です。

しかも接道は用途地域(※)とも密接に結びついているので、接道を理解するためには関連する法令も理解する必要があります。

※用途地域=住宅地や商業地など土地の利用方針を定めて建築できる建物の種類を制限している法令。

接道の違いとしては以下のようなものがあります。
  • 道路の道幅
  • 間口(土地が道路に接している長さ)
  • 公道と私道
  • 方角(東西南北)
  • セットバックの有無と後退面積
  • 道路と土地の高低差
  • 角地や二面接道


こうした接道状況の違いの一つである、接する道路の方角のさらにある一種類が「南向き(南道路)の土地」と呼ばれるものの実態です。この接道状況のうちの方角が与える価値の違いについて、詳しく見ていきましょう。

南向きの土地はなぜ人気なのか


土地の南側に道路があると、当然ですが道路部分には建物が建ちません。すると土地の南側にある建物との間に道路の分だけ距離ができますので、日当たりの良さを確保できます。つまり南向きの土地は日当たりが良いから人気なのです。

同じ理屈で北向きの土地は南側に隣接する家が土地に迫っていますので、日当たりが悪い分だけ人気が下がります。東向きや西向きの土地を基準価格とした場合、南向きの土地は10%アップ、北向きの土地は10%ダウンとなります。北向きと南向きでは約20%もの価格差があるのです。

道路の向きと間取りと斜線制限


同じ金額で土地を買うと…


接道の方角によって金額差があることから、土地を購入する時に同じ予算で北向きの土地を買うとすると、南向きの道路に比べて約2割広い土地を買うことができます。(厳密に言うと土地の坪単価が20%安ければ、同じ予算ならば土地面積は25%広くなりますが、約2割として話を進めます)

すると北向きの土地を買えば土地が広くなる分、建てられる建物の面積も広くなることになります。賃貸併用住宅は自宅と賃貸住宅がくっついた大きな建物になりやすいので、同じ予算で広い土地が購入できるというのは大きなメリットです。

建物の広さを賃貸住宅部分に活かすことは家賃収入の増額に直結しますから、安く購入できる北向きの土地は賃貸併用住宅にはメリットが大きいです。

さらに北向きの土地の場合、建物の南側を全てリビングや居室として利用することもできます。南向きの土地の場合は玄関を南側に配置することになるため、その分だけ建物の南側を日当たりのよい部屋として利用することができません。

もし南北に長い形の土地であれば、建物を北側に寄せて建てることで日当たりを確保することもできます。

北向きの土地ではない場合の弊害


土地の価格が安く広い面積の建物を建てられる以外にも、北向きの土地が持つ大きなメリットがあります。それが北側斜線制限と道路斜線制限の2つの影響による制限を最小化できるというものです。

賃貸併用住宅を建てる場合、どうしても土地に対して目一杯大きな建物を建てようとするため、土地が住宅地(住居地域)にある場合は斜線制限と呼ばれる法令によって建物の高さを斜めに押さえ付けられた形で建てることになります。

よく狭小地に一戸建てが並んで建っている場合、屋根の形が同じ角度で揃っていますが、あの斜めの角度こそ斜線制限の上限まで建物を大きく建てようとした結果となっている訳です。

この建物の高さ制限のうち、大きく影響してくるのが北側斜線と道路斜線です。北側斜線は土地の北側に対する日当たりを確保するために、真北方向に対して建物の高さ制限を加えられます。道路斜線は同じく道路に対する日当たりや風通しの確保と同時に、地域全体としての環境維持を理由に高さを制限されています。

北側斜線と道路斜線による影響の実例


私の賃貸併用住宅の土地は東向きのため、北側と東側がそれぞれ北側斜線制限・道路斜線制限によって高さを抑えられ、斜めに建てられています。

そのためにリビングの東側(道路側)は一部を斜めに空間が削られてしまっています。せっかく4メートル近い吹き抜け空間となっているリビングですが、道路斜線によってそれなりに空間を削られてしまっています。

同様に北側斜線制限によって居室の一部とロフトの高さが抑えられてしまっています。我が家のロフトは12畳もあり、腰をかがめて歩き回れるのですが、北側斜線により天井が低くなっている部分によく頭をぶつけてしまいます。

斜線制限というのは広い空間に住みたいという希望と利益相反となるものですから、出来る限り影響を受けないような土地が好ましいということなのです。

賃貸併用住宅にとって有利な土地の向き

北向きの土地なら斜線制限を最小限にできる


道路が北側にあれば、北側斜線と道路斜線によって二方向から高さを抑えられることはありません。北側の一方向だけ高さを抑えれば良いのです。土地の南側に寄せて建物を建てれば、斜線制限による影響を最小限にして大きな建物を建てることができます。

さらに建物の間取りとしても有利です。北側に玄関や水回りを寄せて、南側にリビングや居室を配置できますから、斜線制限のない大きな空間を日当たりのよい南側に確保することができます。建物の南側を最大限活かすことができるのは北向きの土地の大きなメリットです。

逆にもし南向き道路の土地にギリギリまで広さと高さのある建物を建てようとすると、南側という貴重な方角の一部を斜線制限によって屋根にせざるを得なくなってしまうのです。南側の大きな部分が屋根になってしまえば、日当たりや採光性は大きく下がってしまうことになります。

賃貸併用住宅には北向きの土地がベスト


以上の通り道路の向き(道路付け)については、北向き(北道路)の土地が賃貸併用住宅にとって一番よい選択となります。坪単価が安く同じ予算で広い土地を購入することができ、斜線制限の影響も最小限に抑えて大きくて広い建物を建てられ、建物の南側の間取りを有効に活用することができます。

賃貸併用住宅の例について書いてきましたが、北向きの土地は一般的な一戸建てのマイホームと建てる場合でも有利です。都心の狭小地の一戸建てならば斜線制限の影響を受けますし、そうでなくても北向きの土地は広い分だけ庭を確保でき、間取りの南側を有効活用できるのは変わりありません。

土地を探すときには接道の方角とその価値を知ってから探すことで、南向きの土地が良いという一般常識に惑わされずに良い土地を素早く見抜けるようになります。ぜひ良い土地を見つけてみて下さい。