相続税対策のために無知なまま賃貸併用住宅を建てると間違いなく失敗する


賃貸併用住宅を建てる目的は大きく分けて2種類あります。1つは私のように資産形成とマイホーム取得を目的として、資産のないサラリーマン世帯や自営業者世帯が土地から購入して賃貸併用住宅を建てる場合。もう1つは所有する土地の相続税対策として賃貸併用住宅を建てる場合です。

土地から購入する場合は資産のない人がゼロから取り組むため、賃貸併用住宅の条件に合う土地探しに時間がかかりますし、よほど年収が多い人でない限り、住宅ローンの承認を得るために多くの銀行を回って審査依頼をたくさん出す必要があります。

一方で土地を所有している人は土地を探す必要はないですし、建物を建てる土地を担保にすることで住宅ローンでもアパートローンでも貸し出してくれるため、割と簡単に賃貸併用住宅を建築できてしまいます。相続税対策を目的とするならば毎月の収支を厳しく試算する必要もなく建ててしまえば目的は達成できてしまいます。

ところがこの相続税対策を目的とした場合の「簡単にローンが借りられる」「賃貸併用住宅を建てれば目的は達成する」という点が、賃貸併用住宅を失敗させる大きな原因となっているのです。

相続税対策としての賃貸併用住宅


ここで賃貸併用住宅がなぜ相続税対策となるのか確認しておきましょう。今回の相続税対策のポイントは「小規模宅地等の特例」です。ある程度までの大きさの土地に対しては、相続税の土地評価を減額してあげましょうという法令があり、この制度を上手く利用することで相続税を大きく減らすことができます。

小規模宅地等の特例


土地の利用方法 上限面積 評価減額割合 要件
自宅敷地 330平米 80% 被相続人が配偶者や
同居する親族なら問題なし。
別居している親族は
やや厳しい要件あり。
賃貸敷地 200平米 50% 相続人が引き続き
賃貸経営を行えば問題なし。


上記の通り、自宅用に利用している土地(自宅敷地)の評価と、賃貸住宅として利用している土地(賃貸敷地)とで、相続税評価の減額割合が変わります。単純に考えれば自宅敷地のほうが80%の評価減なので大きく相続税を減らせますが、同居していない親族(主に子供)が相続する場合にはやや厳しい要件があります。

同居していない親族が相続する場合に80%の評価減を受ける要件

相続時点から3年以内に自分名義、もしくは配偶者名義の持ち家に居住していないこと。これは相続人が亡くなった日から3年間さかのぼった期間、賃貸住宅に住んでいることが必要だということになります。

そのため相続するのが別居している子供のみで、その子供が自己所有の自宅に住んでいる場合、自宅用の土地として80%の相続税評価減を適用されるようにするためには、現在の相続人(親)の自宅に同居するか、二世帯住宅を建てて同じ敷地に同居するかの選択をする必要があります。


賃貸併用住宅は最も堅実で手軽な相続税対策


ところが子供世帯にも都合がありますから、相続税対策のために実家に戻って親と同居するということを手軽にできることはなかなかありません。となると、賃貸住宅を建てることで50%の評価減を受けるほうが、家賃収入も手に入るし、親と子の生活状況を変えることもないので手軽に実施できます。

しかも賃貸併用住宅を建てれば、相続人である親は住み慣れた自分の敷地に住み続けながら賃貸住宅を建てることによる収入増加と相続税対策の恩恵も受けられ、一石三鳥ぐらいの成果を得ることができることになります。

なお賃貸併用住宅の場合は、建物の床面積のうち自宅部分と賃貸住宅部分の割合で土地の面積を按分し、それぞれを自宅敷地と賃貸敷地として相続税評価が行われます。土地が300平米、自宅利用割合が30%、賃貸住宅割合が70%ならば、300×30%=90平米が自宅敷地の評価、300×70%=210平米が賃貸敷地の評価となります。


賃貸経営の視点がなければ最悪の場合は破綻する


こうして親の所有する敷地に賃貸併用住宅を建てようという話になり、地元の銀行支店や金融機関に相談すると、土地を担保にすれば簡単に建築費用を借り入れできる、という話をされます。こうなれば渡りに船とばかりに、賃貸併用住宅の企画内容をよく考えもせずに勢いで完成まで突き進むことになります。

ここに破綻へと繋がる様々な落とし穴が待ち受けているのです。

その土地は長い間ずっと家賃収入を得られる立地か


賃貸併用住宅によって家賃収入を得られるかどうかは、その土地の賃貸需要があり続けるかや、周囲の需要と供給のバランスによって大きく左右されます。特に日本はこれから人口が減り続けますから、賃貸需要と需給バランスは厳しめに見積もりするぐらいでちょうど良いのです。

人口が急激に減少する地方自治体であったり、駅から遠く賃貸需要がそもそも少なかったり、競合となるアパートや賃貸マンションを建てられる土地がたくさんあったりと、様々な観点で賃貸経営が成り立つのか確認が必要です。

ハウスメーカーの営業マンは親身にアドバイスをしてくれたとしても、賃貸併用住宅を建ててくれなければ売上にはなりませんから、賃貸経営が厳しい地域だとしても建物の魅力を引き上げれば大丈夫ですと言い切ってきます。ハウスメーカーも存続のため厳しい競争にさらされているのですから仕方がないのです。

賃貸経営が成り立ち、家賃収入を得られ続けることができるかは、事業主である親あるいは子供がしっかりと調査をして判断する必要があります。もし賃貸需要が厳しいと判断して同居も難しいようならば、その土地を売却して子供世帯の近くに賃貸併用住宅が成り立つ土地を買いかえるという選択肢もあります。

家賃収入の試算や建築プランに無理はないか


ハウスメーカーは大きくて豪華な建物を建ててもらえるほど売上が増えますから、当然のように建築プランは建築費用が高くなるように企画を作って提案してきます。施主の賃貸経営が上手くいくかは二の次です。

例えば、賃貸住宅の間取りをワンルームにして部屋数を増やすという提案があります。そうすると試算上の家賃収入は増えますから、良い提案をありがとう、と勘違いしてしまうことがあります。

ところが建物を建ててみると、部屋数が多いために住宅設備にお金がかかって建築費用が高くなったり、一人暮らしの需要が少ないのにワンルームを作り想定していた家賃収入が得られなかったりと、企画段階で考えておけば回避できる落とし穴に簡単にハマってしまうことになるのです。

家賃保証(サブリース)の契約内容は精査したか


賃貸併用住宅を建てる決め手として、賃貸住宅をハウスメーカーが借り上げて家賃保証があるから、という人が多くいます。いわゆるサブリース契約です。ところが契約内容をよく読まなかったばかりに、一方的に借り上げ契約を打ち切られたり、契約家賃をどんどん下げられてしまったりしてローン返済ができずに破綻してしまったり、ギリギリの生活にまで追いやられてしまうトラブルが実際に起こっています。

賃貸需要を自分で調べることもせず、家賃保証があるから大丈夫と判断をプロ(他人)に丸投げしてしまったことが原因ですから建築主・大家に非があるとはいえ、素人を騙す悪意のあるプロがいることは心に刻みつけておきたい事実です。

念のために断っておきますが、家賃保証やサブリースという仕組み自体は素晴らしいものです。賃貸事業の素人である建築主・大家に代わり、賃貸経営のプロがリスクを背負って賃貸経営が上手くいくように運営するのですから、大家とプロの利害が一致する良い仕組みです。

ただしごく一部の悪意を持つ会社が、その制度を自社だけに有利となるよう悪用することで、結果的に大家を破綻させるような契約を提示してくることもあります。そうした一部の悪意を見抜けるだけの知識が大家となる人には必要となります。

賃貸併用住宅による相続税対策自体はとても良い企画


これまで相続税対策を目的とした賃貸併用住宅の落とし穴やリスクを述べてきましたが、住み慣れた土地での生活維持・家賃収入による所得増加・小規模宅地等の特例による相続税の減額と、上手く利用すれば大きな金額の恩恵を受けられるものです。

他人任せでは失敗したり騙されたりする可能性がありますが、ちょっとした行動と情報収集によって適切な知識を身につけることで、十分なメリットを得ることは簡単です。

そのためには自分がまず動くことが大切です。賃貸併用住宅を建てたいという目標のため、簡単なことで良いのでぜひ一歩を踏み出してください。動き始めてしまえば意外とゴールは近いものですから。