ただし通常の賃貸経営とはリスクの大小が違いますので、賃貸併用住宅で特に気を付けるべきリスクとその対処方法を見ていきたいと思います。
空室
賃貸併用住宅に限らず、賃貸経営の最大のリスクは空室で家賃収入が入らないことです。ただし住宅ローンの借入可能額は、たとえ家賃収入がゼロでも返済できる金額までしか銀行が融資をしてくれないので、空室だからといってすぐに住宅ローンの返済ができずに破綻することはありません。これが賃貸併用住宅が低リスクで不動産投資ができる主な理由です。
・空室リスクへの対処方法
破綻する可能性が低いとはいえ、家賃収入が入ってこないことは大問題です。空室ができないようにするためには、空室率の低い立地に賃貸併用住宅を建てることが大前提です。そのため希望通りの建物が建てられるかどうかよりも、まず賃貸需要が長く持続する地域を選び、収益性の高さよりも競争力のある賃貸住宅を作ることを優先します。
立地は都市部の人気のある駅で徒歩10分以内であればほぼ間違いないです。郊外でも幹線道路や商業施設が近いなど、便利な立地であれば十分に競争力のある賃貸住宅が建てられます。ただし都市部は競合が多いので魅力ある部屋を作る必要がありますし、郊外は日本の人口減少とともに街が衰退してしまう可能性があります。
賃貸住宅は一部屋を小さくして部屋数を増やしたほうが家賃収入は増えますが、みな同じように目先の利益を追って狭い部屋を作るせいで供給過多になり、競争力がなくなった結果、建物が古くなるにつれて急速に家賃が下がってしまいます。同じような部屋ばかりで魅力もありません。
それよりも、当初の収益性が多少低くなっても、1LDKのような供給量が少ない間取りの部屋を作り、長い目でみて家賃収入が確保できるような賃貸部分を持つ賃貸併用住宅を建てましょう。
家賃下落
賃貸併用住宅の収益源である家賃ですが、建物や設備が古くなったり、建物のある地域が衰退して賃貸需要が減ったり、競合となる賃貸物件が周囲に次々とできてしまうと、需要と供給のバランスによって空室を避けるためには家賃を下げるしかなくなってしまいます。住宅ローンの返済額は変わりませんので、家賃が下がるとローンの返済が急に苦しくなっていきます。
・家賃下落リスクへの対処方法
空室リスクの対処と同じく、賃貸需要が続く都市部の人気エリアの駅近であることを最優先として、長期的に需要が見込める間取りや特徴を持つ賃貸住宅を作ります。収益性の高さよりも、賃貸併用住宅を建てる地域に不足している間取りの賃貸住宅にしたり、収納を増やしたりセキュリティ設備を強化して女性向けに特化したりと、賃貸住宅としての魅力を優先して企画を作りましょう。
住宅ローン一括返済請求
賃貸併用住宅は住宅ローンを利用して賃貸住宅を取得できるのですが、住宅ローンを提供する銀行としては自宅購入用のローンとして貸し出していますので、自宅部分を賃貸として貸し出してしまうのは融資の目的に反しますので絶対に禁止している行為です。
家賃収入を増やそうとして自宅を賃貸にしてもバレないだろうと安易に貸し出してしまった場合、自宅住所が違うのですぐに賃貸にしていることが銀行には分かってしまい、住宅ローンの一括返済を迫られることになります。
・住宅ローン一括返済請求リスクへの対処方法
当たり前ですが、住宅ローンを借りた場合は自宅を賃貸として貸し出さないようにしましょう。ただし海外転勤や親の介護で地元に帰るなど、やむを得ない事情がある場合は銀行にちゃんと説明すれば自宅を賃貸にすることが認められる場合もあります。
悪質入居者
空室は家賃収入が入ってこないので問題ですが、たとえ入居者がいても家賃を滞納されてしまえば家賃収入を手に入れることはできません。かといって鍵を取り換えて強制的に追い出したりすれば、法律で居住権を保護されている入居者に訴えられれば確実に裁判で負けます。賠償金の支払いまで必要になって踏んだり蹴ったりの状態です。
他にも騒音トラブルを起こしたり、タバコやペットの汚物などで悪臭をまき散らしたり、最悪の場合は事件や事故を起こす人もいます。可能性はとても低いですが、最も問題なのが建物内での殺人事件や自殺です。自然死ではない人の死が発生すると、その物件は事故物件として告知義務が発生し、家賃は半額になってしまいます。それでも借り手がいなかったり、事件のあった家だなどと噂されたりします。
・悪質入居者への対処方法
入居者審査を徹底して行うことです。家賃交渉や設備に関する要求をしてくるなど、クレーマーの要素があれば入居を断ったり、言動が荒かったり、性格が普通ではなく病的な雰囲気を感じる場合は問題がないか不動産会社の担当者によく吟味してもらいます。
特に家賃滞納は収入がない、すぐに追い出せないので他の人にも貸せない、と二重の苦しみになってしまいますので、滞納を長引かせないように家賃の振込が遅れたら即対処して、絶対に滞納額が残らないように家賃を回収しましょう。
また家賃滞納に備えて家賃保証会社への加入も義務付けておけば対処は完璧です。滞納に備えて万が一の時がきたらどうすればよいのか、普段から住居に関する法律や判例を見ておけば悪質入居者も怖くなくなります。
建物劣化
賃貸併用住宅を建てたばかりの頃はキレイですが、築年数が経つと外壁は汚れ、壁にひび割れや変色箇所ができたり、床が傷ついて色あせてきたりします。建物が古くなり劣化していけば当然家賃も下がっていきますので、建物の劣化を放置することは大きな問題です。
・建物劣化リスクへの対処方法
建物の劣化がひどい状態まで放置してしまうと修繕費がとても高くなってしまうので、少しでも建物に傷みができたらすぐに修復をしていくことで結果的に修繕費も安く済み、建物も長持ちします。賃貸併用住宅は自分が住んでいますので、建物の傷みをすぐに見つけることができますし、ホームセンターで材料を買ってきて自分で修理することも簡単にできます。普段から建物の状態をチェックしておけば建物の劣化も恐くはありません。
設備破損
住宅設備にはそれぞれ目安の耐用年数があります。ほとんどの設備は10年から15年経つと徐々に不具合が出てきたり壊れたりします。しかも故障するタイミングは分からないうえに、賃貸住宅で設備が故障したら生活に支障が出ますのですぐに対処しなければなりません。
また自然災害や暑さ・寒さにより設備が壊れたり建物が破損したりすることもよくあります。入居者が壊してしまう場合もありますし、水漏れで壁紙や電気設備がダメになってしまうこともあります。設備の破損や故障は無数といってもいいくらいの原因が存在し、つねり破損のリスクを抱えています。
・設備破損リスクへの対処方法
火災保険に加入するときに、オプションとして用意されている様々な特約を付けておきましょう。火災、落雷、風害、水害、落下物、漏水、盗難、突発的な事故など意外と幅広い問題に対して保険金を支払ってくれます。
また設備が壊れた時を想定して、修理の依頼先の電話番号帳を作っておきましょう。破損が起きてから慌てて修理の依頼先を探すと高く付きますので、あらかじめ良心的な価格で対応してくれる店を見つけておきます。電気工事店、内装工事会社、畳店、ガス設備店、水道工事店、大工さんなど、必要な修繕内容に合わせてすぐに依頼ができるようにしておきましょう。
金利上昇
いまの日本は1998年からずっと低金利が続いていますが、景気が良くなりインフレが起こると金利も上昇することになります。特に住宅ローンは1%以下という超低金利のおかげで借入金額が大きくても毎月の返済額は驚くほど少ないですが、金利が0.5%でも上がればすぐに返済額が数万円上がってしまいます。
特に賃貸併用住宅は自宅だけを買う場合に比べて建物が大きく、住宅ローンの借入金額も大きいため、金利の情報はすぐにローン返済額に影響し、総支払利息は何百万円も増えてしまいます。
・金利上昇リスクへの対処方法
大きく2つの方法があり、両方を併用することが一番確実な対処方法となります。1つ目は低金利のうちにできる限り元金の返済を済ませておくことです。特に返済し始めの数年は利息部分の支払額が大きいので、元利均等返済の場合はあまり元金が減りません。できれば元金均等返済にして、返済初期のうちに元金の返済を多くできるようにします。
もう1つの方法は、家賃収入を使わずに準備資金として確保しておくことです。空室リスクや設備破損への対応用の運転資金という意味合いもありますが、もし金利が上昇した場合は繰り上げ返済をすれば借入額が大きく減りますので、金利が高くても支払利息額は少なくなります。いざとなったら繰り上げ返済すれば良い状況を作っておけば金利上昇もほとんど気にならなくなります。
またより低い金利で貸してくれる住宅ローンの借り換えも有効です。金利上昇の場面でなくても、住宅ローンの借り換えはいつでもできますので、もし少しでもいま借り入れている金利が高いと思ったら、住宅ローンの借り換えサポートサービスを利用して、無駄な支払利息を減らすようにしましょう。